・・・時は一月末、雪と氷に埋もれて、川さえおおかた姿を隠した北海道を西から東に横断して、着てみると、華氏零下二十―三十度という空気も凍たような朝が毎日続いた。氷った天、氷った土。一夜の暴風雪に家々の軒のまったく塞った様も見た。広く寒い港内にはどこ・・・ 石川啄木 「弓町より」
一 デパートの夏の午後 街路のアスファルトの表面の温度が華氏の百度を越すような日の午後に大百貨店の中を歩いていると、私はドビュシーの「フォーヌの午後」を思いだす。一面に陳列された商品がさき盛った野の花のよ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・神代の水も華氏の寒暖計二百十二度の熱に逢うて沸騰し、明治年間の水もまた、これに同じ。西洋の蒸気も東洋の蒸気も、その膨脹の力は異ならず。亜米利加の人がモルヒネを多量に服して死すれば、日本人もまた、これを服して死すべし。これを物理の原則といい、・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・四十六度は華氏で摂氏だと八度です。五十五度が十度よ。 十三日の誕生日にはスエ子からインクスタンドと父から柱時計を貰いました。インクスタンドは黒い円い台の上にガラスの六角のがのっていて、黒いフタのついたもので、しっかりとした感じです。柱時・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・というものありて、華氏百度の熱にて死す云々。これはペツテンコオフエルが疫癘学、コツホが細菌学を倒すに足りぬべし。また恙の虫の事語りていわく、博士なにがしは或るとき見に来しが何のしいだしたることもなかりき、かかることは処の医こそ熟く知りたれ。・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫