・・・前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来るが、後者の方では二度と同じ結果を出すまでに何度試みを繰返・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・しかしA村の甥がK市の姉すなわち彼の伯母のために状袋のあて名を書いてやったという事もずいぶん可能で蓋然であるように思われた。しかしふたつの手跡は似ていると言いながら全く同じであるとは考えにくい点もないではなかった。 もう一つのわからない・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ある辰年の冬ある地方がひどく乾燥でそのために大火が多かったとして、次の辰年にも同様な乾燥期が来るということには、単なる偶然以外に若干の気候週期的な蓋然率が期待されないこともない。 気候の変化が人間の生理にも若干の影響があるかもしれないと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし千羽に一羽、すなわち〇・一プロセントだけ中毒の蓋然率があると言えば、食って平気だったという証人が何人あっても、正確な統計をとらない限り反証はできない。それで兼山のような一国の信望の厚い人がそう言えば、普通のまじめな良民で命の惜しい人は・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
出典:青空文庫