・・・御褒美にバナナを貰って、いつか下へおりていった。「ここでも書きものができましょうがね」老母はそう言って、目の先きに木の生い茂っている山を見上げながら、「山の青々したものはいいもんや」 するうち二人とも横になって、いい心持にうとう・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・するとアグーの太守がわしは勝ち手にとらせる褒美を受持とうと十万枚の黄金を加える。マルテロはわしは御馳走役じゃと云うて蝋燭の火で煮焼した珍味を振舞うて、銀の皿小鉢を引出物に添える」「もう沢山じゃ」とウィリアムが笑いながら云う。「ま一つ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・味の法を行い、春秋二度の大試業には、教員はもちろん、平日教授にかかわらざる者にても、皆、学校に出席し、府の知参事より年寄にいたるまで、みずから生徒に接して業を試み、その甲乙に従て、筆、紙、墨、書籍等の褒美をあたうるを例とす。ゆえにこの時に出・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・後代手本たるべしとて褒美に「かげろふいさむ花の糸口」という脇して送られたり。平句同前なり。歌に景曲は見様体に属すと定家卿もの給うなり。寂蓮の急雨定頼卿の宇治の網代木これ見様体の歌なり。とあり。景気といい景曲といい見様体という、皆わが・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 小学校を最優等でお千代ちゃんは卒業し、日比谷公園へ行って市長の褒美を貰った。その時、お千代ちゃんはやっぱり地味な紡績の元禄を着て海老茶袴をつけて出た。新聞が、それを質素でよいと褒めた。由子は、そうは思わなかった。いい着物をお千代ちゃん・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・スエ子の注射のための看護婦のひとが、私がよく仕事をするからと御褒美によく花をいけかえてくれるのです。あなたのところの蘭はまだ活々として居りましょうか。白藤の花は三房あります。ではまた。 付録 きょうもお話の間にいろいろ私の生活に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・浄い少年が、ついに助け出され巨大な遺産を相続して旦那におさまれるのが、この世の現実であるならば、子供らにとって次第に荒いものとなるその生涯の路上で、堅忍であり、努力的であることも、いわばきっと貰える御褒美めあてのようなもので、たやすいことで・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・ 本当か?使者二 嘘は注進になりません。ヴィンダー 間違いじゃあ無かろうな。使者一 私の眼や耳は、まだ役に立つ積りです。ヴィンダー よい。行け! 褒美は仕事がすんでからだ。――どうだな?ミーダ ふむ。――騒ぐほどのことで・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 海老屋へ行った禰宜様宮田は、きっとふんだんな御褒美にあずかって来るものだと思って、待ちに待っていたお石は、空手で呆然戻って来た彼を見ると、思わず、「とっさん、土産あ後からけえ?」と訊かずにはおられなかった。が、「馬鹿えこく・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ご褒美として二十フランの事。』 人々は卓にかえった。太鼓の鈍い響きと令丁のかすかな声とが遠くでするのを人々は今一度聞いた。そこで人々はこの事件に話を移して、フォルチュネ、ウールフレークが再びその手帳を取り返すことができるだろうかできない・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫