・・・私の目から見るとただ自分の心の中へ中へと引っ込んで行く亮を、どうでも引き立てて外側へ向け直してやる事が自分の務めのように思っていたので、機会あるごとに口をすくして説法のような事を聞かせた。 その当時の亮の日記のようなものを見ていると、こ・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ 学問に志して業を卒りたらば、その身そのまま即身実業の人たるべしとは、余が毎に諸氏に勧告するところにして、毎度の説法、聴くもわずらわしなど思う人もあるべけれども、余が身に経歴したる時勢の変遷を想回えして、近く第二世の事を案ずれば・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・則ち説いて曰くと、これは疾翔大力さまが、爾迦夷上人のご懇請によって、直ちに説法をなされたと斯うじゃ。汝等審に諸の悪業を作ると。汝等というは、元来はわれわれ梟や鵄などに対して申さるるのじゃが、ご本意は梟にあるのじゃ、あとのご文の罪相を拝するに・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ ちょくちょく新聞に出るよその偉いお嬢さんや奥さんの様に、お茶を出しお菓子を出したあげく、御説法をして、お金をちょんびりやって帰す様な事が出来でもしたら、それこそ剛儀なものだ。 けれ共、うっかり私がそんな真似でも仕様ものなら、お茶碗・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ ところで、若し、あなたが俸給生活者であり、又は工場労働者で、毎日職場でブルジョア産業合理化による首きりの不安と、安い労働賃銀の苦しみにさらされている時、この説法をきいて成程、とどうして思うことが出来るでしょう。現代反動政府とそれを支配・・・ 宮本百合子 「反宗教運動とは?」
・・・と世界中を説法して歩いている。木村はなぜ戦わないだろうか。実は木村も前半生では盛んに戦ったのである。しかしその頃から役人をしているので、議論をすれば著作が出来なかった。復活してからは、下手ながらに著作をしているので、議論なんぞは出来ないので・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・「いや。説法さえ廃して貰われれば、僕も謗法はしない。だがね、君、独身生活を攻撃することは廃さないよ。箕村の処なんぞへ行くと、お肴が違う。お梅さんが床の間の前に据わって、富田に馳走をせいと儼然として御託宣があるのだ。そうすると山海の美味が・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫