・・・この作者が歴史の進歩的な面への共感によって生きようとしている限り、よしんば偶然によって貯蓄された経験であろうとも、真摯な芸術化の過程を通じて真に作者を発展せしめる社会的な必然の内容となし得るのであるから。真の収穫はいわばこれからともいい得る・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・同時に、きょうの社会現象のあれこれが、未亡人の官製全国組織に、かつて軍時貯蓄勧誘に尽力した某女史が再登場しているということまでふくめて、細密に観察され評価されてゆくことも、必要である。そして、双方ともにそれぞれの意義をもっている二つの研究に・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・従って、貯蓄はない。 二人の分を合わせて三百円もあるだろうか。 朝、大抵八時半から九時半までに起る。朝飯後、一時頃まで書きつづけて食事にする。 それから髪を結い、日当ぼっこをし乍ら、読んだり、小さいものを書く。三四時頃Aが帰宅し・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・若し、それが幸一月や二月位の病患ならば自身の貯蓄を費し尽しても、或は幾分かが雇主の負担と成るにしろ、全然耐ゆべからざるほどのことではないかもしれません。けれども、それが、幾年も幾年も継続する種々な重い慢性病の一つだったら如何でしょう。 ・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・――永年の宿望を遂げて、貯蓄した金でさて一軒建てようという人々のように、騙されやしまいかと心配したり一円でも廉くていいものを使いたいとか、こせついて癪に触るようなさもしいところが、飯田の奥さんにはちっともなかった。――が、後見の手塚準之助が・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・強制貯金をさせるという気はないという意味にとれる答えが、いくつかの答えの中にあったが、その朝、貯蓄組合加入の紙が市役所のビラと一緒に町会からまわって来て、各戸最低五十銭以上の貯蓄をすすめられているものには、では、あれはちがうのかしら、と思わ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・人民の貯蓄は、昨年末から、大干潮のように減少しつづけた。反対に、物価は、上へ、上へと、のぼりつめて、二本の線を、もすこしのばせば、其は完全な十の字となってぶっちがうところ迄来た。モラトリアムをしくしか、政府のうつべき手はなかったのである。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・彼と我れとの相違は、いわば十露盤の桁が違っているだけで、喜助のありがたがる二百文に相当する貯蓄だに、こっちはないのである。 さて桁を違えて考えてみれば、鳥目二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでいるのに無理はない。その心持ちはこっち・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫