・・・研究はいつのまにか現在物理学の前線へ向かってひそかにからめ手から近づきつつあった。研究資金にあまり恵まれなかった彼は「分光器が一つあるといいがなあ」と嘆息していた。そうして、やっと分光器が手に入って実験を始めるとまもなく一つの「発見」を拾い・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・その後ウェストミンスター・アベーに記念の標石を納めようという提議が大学総長や王立協会会長などの間に持出され、その資金が募集された。標石の上の方には横顔を刻したメダリオンが付いている。レーリーの私淑したと思わるるトーマス・ヤングの記念標と丁度・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・という、いよいよ降参人の降参人たる本領を発揮せざるを得ざるに至った、ああ悲夫、 乗って見たまえとはすでに知己の語にあらず、その昔本国にあって時めきし時代より天涯万里孤城落日資金窮乏の今日に至るまで人の乗るのを見た事はあるが自分が乗って見・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 帝室より私学校を保護せらるるの事については、その資金をいかんするやとの問題もあれども、この一条はもっとも容易なることにして、心を労するに足らず。我が輩の持論は、今の帝室費をはなはだ不十分なるものと思い、大いにこれを増すか、または帝室御・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・特に、生活資金の二百円削減は、日常生活に甚大に響き、物価高、米の配給遅延の悪条件、失業の増大等、どんな婦人の心にも、このままではやってゆけない切迫感を湧きたたせている。婦人立候補者の大部分は「政治と台所の直結」といい「女の問題は女で」といい・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・このベンデルが、永年の夢として抱いているリオ・デジャネイロ市へ永住するための資金を稼ごうとして、数年来あらゆる悪辣な秘密手段をつかってこっそり金をためている「ヘリクレス」コンツェルンの会計係コレイコから、その金を捲き上げようとする。その過程・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ パリにおけるマルクス一家の経済的基礎であった『独仏年誌』は失敗して、わずか二号で廃刊した。資金が続かなくなった。その上ドイツ官憲は執筆者たるマルクス、ルーゲ、ハイネ等の入国を禁止し、『年誌』の輸入を禁じ国境で没収した。カールが受取るべ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・産業別の生産組合は、或る一つの企業をやるとき、必ず天から勤労者福祉資金何割というものを予算に加えて仕事をはじめる。 五箇年計画でソヴェト同盟の中には、水力発電所、工場、集団農場、夥しくふえた。ソヴェトで工場が建ち集団農場が一つふえたとい・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
この頃は、結婚の問題がめだっている。この一年ばかりのうちに、私たち女性の前には早婚奨励、子宝奨励、健全結婚への資金貸与というような現象がかさなりあってあらわれてきている。そして、どこか性急な調子をもったその現象は、傍にはっ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・おじいさんたちの生活資金はありませんからね、などという人がありますでしょうか、しかし、この五百円生活だと、二人はみ出ていることになる。おじいさん、おばあさんは何で生きて行くのでしょう。政府が決めた、生きて行けという総計だと、ずいぶんおかしな・・・ 宮本百合子 「幸福について」
出典:青空文庫