・・・と言えば思出す、この町の賑かな店々の赫と明るい果を、縦筋に暗く劃った一条の路を隔てて、数百の燈火の織目から抜出したような薄茫乎として灰色の隈が暗夜に漾う、まばらな人立を前に控えて、大手前の土塀の隅に、足代板の高座に乗った、さいもん語りのデロ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ その夜のうちに、池の島へ足代を組んで、朝は早や法壇が調った。無論、略式である。 県社の神官に、故実の詳しいのがあって、神燈を調え、供饌を捧げた。 島には鎌倉殿の定紋ついた帷幕を引繞らして、威儀を正した夥多の神官が詰めた。紫玉は・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・「月給七十円、べん当代30銭 足代が出るから助ります 朝出るとき一円ぐらいもって行ったって足が出ますからね そうすると書き出しで貰うんです」 一二年先へ先へと見とおしをつけなけりゃ困りますからね、真剣ですよ。 三千円ぐらいなら出・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
出典:青空文庫