・・・また反対に零細のスケッチを無価値として軽侮する人もあるかもしれないが、科学というものの本来の目的が知識の系統化あるいは思考の節約にあるとすれば、まずこれらのスケッチを集めこれを基として大きな製作をまとめ渾然たる系統を立てるのが理想であろう。・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・をするような他の学者に対してはなはだしく反感と軽侮をいだくような現象さえ生じるのである。こうなるとジャーナリズムはむしろ科学の学海の暗礁になりうる心配さえ生じるのである。 純粋な物理学や化学の方面の仕事はどんな立派な仕事でも素人にはむつ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・というのは最高度の軽侮を意味するエピセットである。これは彼らが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的にははちの子やまた蚕ともそれほどひどくちがって特別に先験的に憎むべく賤しむべき素質を具備しているわけではないのである。それ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・どこの玄関や勝手口でも疑いと軽侮の眼で睨まれ追われる。その屈辱の苦味をかみしめて歩いているうちに偶然ある家へはいると、そこは冷やかな玄関でも台所でもなくそこに思いがけない平和な家庭の団欒があって、そして誰かがオルガンをひいていたとする。その・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・芸術の世界に限らず科学の世界でも何か新しい事を始めようとする人に対する世間の軽侮、冷笑ないし迫害は、往々にして勇気を沮喪させたがるものである。しかし自分の知っている津田君にはそんな事はあるまいと思う。かつて日露戦役に従ってあらゆる痛苦と欠乏・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これを誤解すれば、物理学を神の掟のように思って妄信してしまうか、さもなくば反対に物理学の価値を見損なって軽侮してしまうかの二つに一つである。 物理の実験である予定の結果に到達しようとするには、その結果を支配し得べきあらゆる条件要素を考え・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・こいつはもうだめだと思いながら、そのものに対する責任は尽くして行くといったような態度や弱き者に対する軽侮の笑いに対しては、生きている私は屈辱を感ぜずにはいられなかった。」 私はここまで読んだ時に、当時の自分のどこかに知らぬ間に潜んでいた・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ 少しむつかしくなるのは、得意な時の自慢笑い、軽侮した時の冷笑などである。しかしにはとの混合があり、にはやの錯雑がある。苦笑というのがある。これは自分を第三者として見た時のととが自分を自分とした時の苦痛と混合したものででもあろうか。・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・もし然らずして教師みずから放蕩無頼を事とすることあらば、塾風たちまち破壊し、世間の軽侮をとること必せり。その責大にして、その罰重しというべし。私塾の得、一なり。一、私塾にて俗吏を用いず。金穀の会計より掃除・取次にいたるまで、生徒、読書の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・んじて、権力はもっぱら長男に帰し、長少の序も紊れざるが如くに見えしものが、近年にいたりてはいわゆる腕前の世となり、才力さえあれば立身出世勝手次第にして、長兄愚にして貧なれば、阿弟の智にして富貴なる者に軽侮せられざるをえず。ただに兄のみならず・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫