・・・追放や苦役に決った囚人がそこに入れられて輸送されているのであった。舳先に歩哨の銃剣が燭火のように光っている。艀舟の中は静寂で月の光が豊かに濯いでいる。ゴーリキイは、昼間の疲れと景色の美しさに恍惚としつつ思うのであった。「善良な人間になりたい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そして、食糧の輸送に一つの強味を加えることは出来ないものだろうか。 各地の警察連絡にはラジオが利用されるが、鉄道にはそれが利用しようともされていないというのが、今日でも、日本の現状であるのだろうか。 わたしは全波のラジオが早く聴きた・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・我を忘れて声をあげ、それに答えて手をふっているうちに、列はすぎて、食糧輸送組合の血気な人々が、自分から脚の生えた米俵になってやってくる。「石川島」と大旗を立て整然とした男女の大部隊がつづいてくる。とりわけ元気に、赤旗を先頭に立ててきた一団の・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・外国の市民の生活と日本の人民の生活とを比較するような機会は、戦争の必要としないことであったから、輸送とか、為替関係とかの名目によって、出版物の国際的な交換は禁止された。こういう状態の下に置かれた私どもが、どうして自分達がおかれた事情の法外さ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・軍隊の輸送、避難民の特別列車の為め、私共の汽車は順ぐりあと廻しにされる。貨車、郵便車、屋根の上から機関車にまでとりついた避難民の様子は、見る者に真心からの同情を感じさせた。同時に、彼等が、平常思い切って出来ないことでも平気でやるほど女まで大・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫