・・・この二つの事実を左右の翼として、論理的に一段の交渉を前方に進めるならば、我々は局外者に向って興趣ある一種の結論を提供する事が出来る。その結論とはこうである。―― わが小説界は偉大なる一、二の天才を有する代りに、優劣のしかく懸隔せざる多数・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・非常な不健康や欠乏は、一時も早く改善され、互に、終局の目標に進めることが大切である。 広くもない地球の上で、幾千万と云う人間が、飢え渇え、獣物にまで成り下っている有様は、万の王宮を以て償えないディスグレースではないだろうか。〔一九二二年・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・憲法審議のための委員会に一人二人の婦人代議士が出席していたとしても、彼女達は具体的に人民憲法を作るように審議を進めることはしませんでした。改正憲法の中に奇妙な特殊性として天皇が存在しつづけていることを考えることはしませんでした。「政治は台所・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 五ヵ年計画はソヴェト鋳鉄生産額を世界第三位に、石炭採掘量において世界第四位に進めるばかりではありません。全ソヴェトの生産に従事する勤労者の平均賃金は五ヵ年計画の終りにおいて七一パーセント増すだろう。国家計画部は…… 樺色の上着の肩で音・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・日本の民主主義勢力が日本の民主化をおし進める努力とその成果との対照なしにいえないことです。 本年度は勤労人民の中からの文化活動は、経済的な苦痛を打開しようとするたたかいとともに活溌になります。組織的にいえば、組合の文化部は前年度の経験に・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ソヴェトの新しい音楽家は、その大きな遺産をどう利用し、社会主義的な社会の感覚にふさわしい新形式へ進めるかという点で、大きな課題を与えられているわけなのだ。 第一国立オペラ舞踊劇場でも、オペラの長い幕間には、本を出してよんでいるソヴェト市・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・堕落において彼女は性器の機能を問われるばかりで、人間の感情としての、特にこれ迄抑圧されていた日本の女としての解放を求める気持からの堕落の適用を問題の外におかれるならば、それは肯定して進める道であろうか。ましてや、性的欲望は、その機能が食慾と・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ファシズムに賛成しないというだけのところに限度を置いてそこに居据っていたのでは、今日の文化を進歩的な方向に進める思潮とはなり難い。更にそれから先、ではどうするかという問題が示唆されなければならない。日本の現実に即してリアリスティックに生活と・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・そこで氏は文化の自由こそ文化を進めるものであると主張されているのであるが、ここでも氏の判断の中で曖昧のままのこされている上述の一点は作用して、結末に於て、作家たちが「保護」に対して常に懐疑的であるのは尊敬すべきであるが「反対にそうした信念を・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・写実の歩を進めるとすれば、この点も考慮せられなくてはならぬ。 が、この画家には川端氏のごとき山気がない。素直にその感じを現わそうとする芸術家的ないい素質がある。先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫