・・・また第二の方は、さまで面倒もなく損害もなき故、何となく子供の痛みを憐れみ、かつは泣声の喧しきを厭い、これを避けんがために過ちを柱に帰して暫くこれを慰むることならんといえども、父母のすることなすことは、善きも悪しきも皆一々子供の手本となり教え・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・どうぞこの会合をお避けなさらないで、わたくしに失望をおさせなさらないように、くれぐれもお願申します。わたくしはあなたにお目に掛かって、それをたよりにこれからさきの生活を続けようと存じています。それからどうぞ今はいけないから後にしろなんぞとお・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・今人を呼び起したのも勿論それだけの用はあったので、直ちにうちの者に不浄物を取除けさした。余は四、五日前より容態が急に変って、今までも殆ど動かす事の出来なかった両脚が俄に水を持ったように膨れ上って一分も五厘も動かす事が出来なくなったのである。・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・知らない草穂が静かにゆらぎ、少し強い風が来る時は、どこかで何かが合図をしてでもいるように、一面の草が、それ来たっとみなからだを伏せて避けました。 空が光ってキインキインと鳴っています。 それからすぐ目の前の霧の中に、家の形の大きな黒・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・によきアカデミズムがあったのなら、どうしてケーベル博士は大学の教授控室の空気を全く避けとおしたということが起ったろう。夏目漱石は、学問を好んだし当時の知識人らしく大学を愛していた。彼に好意をもって見られた『新思潮』は久米、芥川その他の赤門出・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・某は身をかわして避け、刀は違棚の下なる刀掛に掛けありし故、飛びしざりて刀を取り抜き合せ、ただ一打に横田を討ち果たし候。 かくて某は即時に伽羅の本木を買い取り、仲津へ持ち帰り候。伊達家の役人は是非なく末木を買い取り、仙台へ持ち帰り候。某は・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・それはあなたがわたくしを避けて逢わないようになさいましたのも、御無理ではございません。わたくしの手からなんの手掛かりをもお受けにならなかったのですからね。そんなわけで、まあ、きょうお目に掛かったのは本当に久し振りでございましたわね。わたくし・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・ 異才の弟子の能力に高田も謙遜した表情で、誇張を避けようと努めている苦心を梶は感じ、先ずそこに信用が置かれた気持良い一日となって来た。「ときどきはそんな話もなくては困るね。もう悪いことばかりだからなア。たった一日でも良いから、頭の晴・・・ 横光利一 「微笑」
・・・物的価値に執する彼の態度への悪感から私はむしろそういう尽力を避けていました。そうしてこの私の冷淡は彼の態度をますます浅ましくしました。ここでもまた私は責めを脱れる事ができないのです。畢竟私の非難が私自身に返って来ます。 私は自分の思想感・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫