・・・勿論あれが同じあのようなものにしても生硬粗雑で言葉づかいも何もこなれて居ないものでありましたならば、後の同路を辿るものに取って障礙となるとも利益とはなっていなかったでしょうが、立意は新鮮で、用意は周到であった其一段が甚だ宜しくって腐気と厭味・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・所が何も障害物のない広い野だのに、道が真直についていないのサ。道が真直についていれば早く到着するのだのにサ。君も知ているだろう、二点の間の最も近きは直線なりという訳サ。所がヒニクに道路が曲りくねッてついているのサ。爰だテ、なぜ道が曲ッてつい・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・曰くサ、「最も障碍の少き運動の道は必らず螺旋的なり」というので沢山サ。一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線に極ッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。直線に進まないのではないが、螺旋をして行く場合には・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・るべき病菌が充満して居る、汽車・電車は、毎日のように衝突したり人を轢いたりして居る、米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下して居る、警察・裁判所・監獄は多忙を極めて居る、今日の社会に於ては、若し疾病なく障害なく真に自然の死を遂げ得る人ありとせ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・「大芸術家とは、束縛に鼓舞され、障害が踏切台となる者であります。伝える所では、ミケランジェロがモオゼの窮屈な姿を考え出したのは、大理石が不足したお蔭だと言います。アイスキュロスは、舞台上で同時に用い得る声の数が限られている事に依て、そこ・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・これで交通の障碍がやっと除かれたのである。おれはこの出来事のために余程興奮して来たので、議会に行くことはよしにした。ぶらぶら散歩して、三十分もたってから、ちょうど歩いていたスプレエ川の岸から、例の包を川へ投げた。あたりを見廻しても人っ子一人・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・私の考えでは婦人というものに天賦のある障害があって、男子と同じ期待の尺度を当てる訳にはいかないと思う。」 キュリー夫人などが居るではないかという抗議に対しては、「そういう立派な除外例はまだ外にもあろうが、それかといって性的に自ずから・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・もし旋風のためとすればそれは馬が急激な気圧降下のために窒息でもするか内臓の障害でも起こすのであろうかと推測される。しかしそれだけであってこのギバの他の属性に関する記述とはなんら著しい照応を見ない。もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・そういう事実を無視して、科学ばかりが学のように思い誤り思いあがるのは、その人が科学者であるには妨げないとしても、認識の人であるためには少なからざる障害となるであろう。これもわかりきったことのようであってしばしば忘られがちなことであり、そうし・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・帚葉山人はわざわざわたくしのために、わたくしが頼みもせぬのに、その心やすい名医何某博士を訪い、今日普通に行われている避姙の方法につき、その実行が間断なく二、三十年の久しきに渉っても、男子の健康に障害を来すような事がないものか否かを質問し、そ・・・ 永井荷風 「西瓜」
出典:青空文庫