・・・ 修理は、越中守が引きとった後で、すぐに水野監物に預けられた。これも中の口から、平川口へ、青網をかけた駕籠で出たのである。駕籠のまわりは水野家の足軽が五十人、一様に新しい柿の帷子を着、新しい白の股引をはいて、新しい棒をつきながら、警固し・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ と太く書生ぶって、「だから、気が済まないなら、預け給え。僕に、ね、僕は構わん。構わないけれど、唯立替えさして気が済まない、と言うんなら、その金子の出来るまで、僕が預かって置けば可うがしょう。さ、それで極った。……一ツ莞爾としてくれ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・とうっかり、あみ棚に預けた夏帽子の下で素頭を敲くと、小県はひとりで浮かり笑った。ちょっと駅へ下りてみたくなったのだそうである。 そこで、はじめて気がついたと云うのでは、まことに礼を失するに当る。が、ふとこの城下を離れた、片原というのは、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・二宮金次郎氏は十四のときに父を失い、十六のときに母を失い、家が貧乏にして何物もなく、ためにごく残酷な伯父に預けられた人であります。それで一文の銭もなし家産はことごとく傾き、弟一人、妹一人持っていた。身に一文もなくして孤児です。その人がドウし・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・友だちの家に頼って、雨のやむまで待って、帰りには、その無花果の鉢を預けてゆきました。 幾月も、幾年もたちましたけれど、男は、忘れたものか、友だちの家へあずけた木を取りにゆきませんでした。 しかし、この男は、なかなか欲深でありました。・・・ 小川未明 「ある男と無花果」
・・・ こっちはただの帆前船で、逃げも手向いも出来たものじゃねえ、いきなり船は抑えられてしまうし、乗ってる者は残らず珠数繋ぎにされて、向うの政府の猟船が出張って来るまで、そこの土人へ一同お預けさ」「まあ! さぞねえ。それじゃ便りのなかったのも・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・俄かやもめで、それもいたし方ないとはいうものの、ミルクで育たぬわけでもなし、いくら何でも初七日もすまぬうちの里預けは急いだ、やはり父親のあらぬ疑いがせきたてたのであろうか――と、おきみ婆さんから教えられたのは、十五の時でした。おきみ婆さんの・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「十万円は定期で預けていて、引き出せんのじゃないかね」「しつこいね。僕は生れてから今日まで、銀行へ金を預けたためしはないんだ。銀行へ預ける身分になりたいとは女房の生涯の願いだったが、遂に銀行の通帳も見ずに死んでしまったよ」「ふー・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 朝飯を済まして、書留だったらこれを出せと云って子供に認印を預けて置いて、貸家捜しに出かけようとしている処へ、三百が、格子外から声かけた。「家も定まったでしょうな? 今日は十日ですぜ。……御承知でしょうな?」「これから捜そうとい・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 自分が百円持って銀行に預けに行く途中で、掏児に取られた体にして届け出よう、そう為ようと考がえた、すると嫌疑が自分にかかり、自分は拘引される、お政と助は拘引中に病死するなど又々浅ましい方に空想が移つる。 校舎落成のこと、その落成式の・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
出典:青空文庫