・・・同時に又そう云う学校を兼ねた食糧や衣服の配給所でもない。唯此処に住んでいれば、両親は子供の成人と共に必ず息を引取るのである。それから男女の兄弟はたとい悪人に生まれるにもしろ、莫迦には決して生まれない結果、少しも迷惑をかけ合わないのである。そ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・すべて当然のことであり、誰が考えても食糧の三合配給が先決問題であるという結論に達する。三歳の童子もよくこれを知っているといいたいところである。円い玉子はこのように切るべきだと、地球が円いという事実と同じくらい明白である。しかし、この明白さに・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・ こんなのは、昨年の旱魃にいためつけられた地方だけかと思っていたら、食糧の供給を常に農村に仰がなければならない都会では、もっとすさまじいらしい。農村よりはよほどうまいものを食いなれている都会人には、恐らく外米は、痛くこたえることだろう。・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・ゴロ寝をしていた浜田たちは頭をあげた。食糧や、慰問品の受領に鉄道沿線まで一里半の道のりを出かけていた十名ばかりが、帰ってきたのだ。 宿舎は、急に活気づいた。「おい、手紙は?」 防寒帽子をかむり、防寒肌着を着け、手袋をはき、まるま・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それでもって大阪から日本の各地や世界中へ、東京横浜の大惨害がつたえられ、地方からの食糧輸送とうがはじまったのです。同飛行機は、火災地の上空をいきかえりしたので、機体がすすでまっ黒になったと言われています。 摂政宮殿下には災害について非常・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・なにせ、東京は食糧が無いんで、兄は大学を出て課長をしているが、いつも俺に米を送ってよこせという手紙だ。しかし、送るのがたいへんでな。兄が自分で取りに来たら、そうしたら、俺はいくらでも背負わさせてやるんだが、やっぱり東京の役所の課長ともなれば・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・私は、だまっていては、私自身の明日の食糧にさえ困るのだ。ああ、私が、いますこし、お金持であったら! それやこれやで、私は、私自身、湖畔の或る古城に忍び入る戦慄の悪徳物語を、断念せざるを得なくなった。その古城には、オフェリヤに似た美しい孤・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 食糧品を両側に高く積み上げた雪中の廊下の光景などもおもしろい。食糧箱の表面は一面に柔らかい凝霜でおおわれていて、見ただけではどれがなんだかわからないが、糧食係の男は造作もなく目的の箱を見いだして、表面の凝霜をかきのけてからふたを開き中・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 北海道では熊におびやかされたり、食糧欠乏の難場で肝心の貯蔵所をこの「山のおじさん」に略奪されて二三日絶食した人もある。道を求めて滝壺に落ちて危うく助かった人もある。暴風にテントを飛ばされたり、落雷のために負傷したり、そのほか、山くずれ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・の話であった。食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。 色・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
出典:青空文庫