・・・があると言えば、それはおそらく多くの人が首肯するであろう。ある一部の人々が宣伝というものに対していだいている漠然とした反感のようなものも、一つはここに帰因するのであろう。 店の飾りや、広告の楽隊や、旗印を押し立てた自動車やは、あれは最も・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ とにかくこういうふうに考えれば、完全週期的な縞と不規則な縞とをひとまとめに論ずる事がそれほど乱暴でないということだけは首肯されるであろう。 以上のほかにも天然の縞模様の例はたくさんあるであろう。放電についても放電管内の陽極の縞や、・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これはおそらく大多数の科学者の首肯する所なるべし。しかし実際にはこれらのすべての条件が知り難き故に結果の単義性は問題となる。 抽象的、数学的に考うれば複義性なる函数は無数に存在す。例えばファン・デル・ワール等の理論に従えば、ガス体の圧を・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・とかくに芝居を芝居、画を画とのみして、それらの芸術的情趣は非常な奢侈贅沢に非ざれば決して日常生活中には味われぬもののように独断している人たちは、容易に首肯しないかも知れないが、便所によって下町風な女姿が一層の嬌艶を添え得る事は、何も豊国や国・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・百年の経験を十年で上滑りもせずやりとげようとするならば年限が十分一に縮まるだけわが活力は十倍に増さなければならんのは算術の初歩を心得たものさえ容易く首肯するところである。これは学問を例に御話をするのが一番早分りである。西洋の新らしい説などを・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ これではまだ日高君は首肯されないかも知れないからもっとも著しい例を挙げると、ゼ・ニガー・オブ・ゼ・ナーシッサスのようなものである。これは一人の黒奴が、ナーシッサスと云う船に乗り込んで航海の途中に病死する物語であるが、黒奴の船中生活を叙・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・けれどもそれが西洋人一般の判断だと、先生から注意されて見ると、なるほどと首肯せざるを得ない。こういう意味において、先生の著述は日本を外国に紹介する上に非常な利益があるばかりでなく、研究心に富んだ外国人が、われら自身を如何に観察しているかを知・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・記者先生に於ても二百年来の変遷を見て或は首肯せらるゝことある可し。 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・其で、所謂賢明な者は、相当に一般を首肯させる理論を前提として、最も安全な現状維持を主張致します。此の傾向が、“Against the Convention of Unconvention”を称する一群の動機に大きな関係を持って居る事は争われ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・わたくしはこれを首肯する。そして不用意に古言を用いることを嫌う。 しかしわたくしは保守の見解にのみ安住している窮屈に堪えない。そこで今体文を作っているうちに、ふと古言を用いる。口語体の文においてもまた恬としてこれを用いる。着意してあえて・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫