・・・小猫は黒毛の、眼を光らせた奴で、いつの間にか二人の腰掛けている方へ来て鳴いた。やがて原の膝の上に登った。「好きな人は解るものと見えるね」と相川は笑いながら原が小猫の頭を撫でてやるのを眺めた。「それはそうと、原君、長く田舎に居て随分勉・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・ ゴーリキイの心を更に苦しめ、腹立たしくするのは、女客に対する店じゅうの者の恥知らずな蔭日向であった。黒毛皮の外套の素晴らしい美しい女が店へ入って来る。主人、番頭、サーシャ「三人が三人とも、鬼の子みたいに店を駆け廻り」あたりのものが燃え・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 可愛がらなければならないはずのものが可愛くなくって、可愛がらなくってもいいものが可愛くてたまらないと云うことは、だれにでもある人情だと見える。 黒毛の猫とあんまりやせた犬とはねらわれて居るようで、かべのくずれたのはいもりを・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫