・・・自分は、ハンデキャップを認めません。体当りで来た時には、体当りで返事をします。 今日は、君の作品に就いてだけ申し上げました。君のお手紙の言葉に対しては、次の機会にゆっくりお答えしたいと考えています。君の二通の手紙は、君の作品に較べて、ひ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・いつか、私の高等学校時代からの友人が、おっかなびっくり、或る会合の末席に列していて、いまにこの辺、全部の地区のキャップが来るぞと、まえぶれがあって、その会合に出ているアルバイタアたちでさえ、少し興奮して、ざわめきわたって、或る小地区の代表者・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・金持の子というハンデキャップに、やけくそを起していたのだ。不当に恵まれているという、いやな恐怖感が、幼時から、私を卑屈にし、厭世的にしていた。金持の子供は金持の子供らしく大地獄に落ちなければならぬという信仰を持っていた。逃げるのは卑怯だ。立・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・というハンデキャップは、殆ど暴力と同じくらいに荒々しいものである。例えば、私が、いま所謂先輩たちの悪口を書いているこの姿は、ひよどり越えのさか落しではなくて、ひよどり越えのさか上りの態のようである。岩、かつら、土くれにしがみついて、ひとりで・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・病躯の文章とそのハンデキャップに就いて 確かに私は、いま、甘えている。家人は私を未だ病人あつかいにしているし、この戯文を読むひとたちもまた、私の病気を知っている筈である。病人ゆえに、私は苦笑でもって許されている。 君、か・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ところがLの capillus はもとは capの dim. だそうで caput や、ギリシアの「ケファレ」も同じものである。そうして、この「カピラ」は「毛髪」の意に使われている。これが「カヒラ」を経て「カシラ」になりうるのである。言海に・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・が雑誌『文芸』に発表されて程なく、一九三三年十二月二十六日宮本顕治は東京地方委員会のキャップをしていたスパイに売られて検挙された。 一九三四年一月十五日にわたしも検挙され、六月十三日、母の危篤によって家へ帰された。母はわたしの顔をおぼろ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・○まるで花のない部屋 老ミセス、バチェラー ○大きい猫目石のブローチ ○網レースに、赤くエナメルした小さい小鳥のブローチや花などをところどころにつけたビクトリア時代の流行のキャップ ○老猫のような髭 ○蒼・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 書簡註。キャップ、アンド、ガウンの大学生が街燈のガス燈によじのぼって灯屋をあけ煙草をすいつけようとしている。そこへ来かかったのは、太った体にガウンをゆさゆさと着、胸に白ネクタイを下げた学生監並にシルクハットにフロック・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・瑞々しい、青い、四月の菊の葉に照って、薄桃色の、質のよい貝殼のような嘴、黒天鵞絨のキャップをのせた小さい頭、こまやかな鼠灰色の羽なみが、実に優美だ。鳥は、チチ、チチ、と短く囀りながら、二とび三とび地面を進んで見る。思いがけず翔び出した広い空・・・ 宮本百合子 「春」
出典:青空文庫