出典:青空文庫
・・・しこうして、その理想なるものが、忠とか孝とかいう、一種抽象した概念を直ちに実際として、即ち、この世にあり得るものとして、それを理想とさせた、即ち孔子を本家として、全然その通りにならなくともとにかくそれを目あてとして行くのであります。 な・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・われわれにとっては art は二の次で、人格が第一なのです。孔子様でなければ人格がない、なんていうのじゃない。人格といったってえらいという事でもなければ、偉くないという事でもない。個人の思想なり観念なりを中心として考えるということである。・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・曾て東京に一士人あり、頗る西洋の文明を悦び、一切万事改進進歩を気取りながら、其実は支那台の西洋鍍金にして、殊に道徳の一段に至りては常に周公孔子を云々して、子女の教訓に小学又は女大学等の主義を唱え、家法最も厳重にして親子相接するにも賓客の如く・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れたるの罪なりとて、専ら道徳の旨を奨励するその方便として、周公孔子の道を説き、漢土聖人の教をもって徳育の根本に立てて、一切の人事を制御せんとするものの如し。 我が輩は論者の言を聞き、その憂うると・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・だから一方に於ては、孔子の実践躬行という思想がなかなか深く頭に入っている。……いわばまあ、上っ面の浮かれに過ぎないのだけれど、兎に角上っ面で熱心になっていた。一寸、一例を挙げれば、先生の講義を聴く時に私は両手を突かないじゃ聴かなんだものだ。・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・われわれはみな孔子聖人の末なのだ。」「なんだかわからないが、おもてにいるやつは陳というのか。」「そうだ。ああ暑い、蓋をとるといいなあ。」「うん。よし。おい、陳さん。どうもむし暑くていかんね。すこし風を入れてもらいたいな。」「・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・ 永遠に変らざる「真」がその一言の中にも輝いて居るからでは無いか。 ホーマーもミルトンも、只「真」の一字がある故に尊いではないか。 孔子、基督、その他あらゆる人々の頭上高く、真の光りに被われて居たが故に偉大なのである。 道徳・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・見る瞳さえつぶせば、と盲目にして娼婦の営みをさせた。孔子の言葉は現実をどこまで改善しただろう。 粤東盲妓という題の詩が幾篇もあって、なかに、亭々倩影照平湖 玉骨泳肌映繍繻斜倚竹欄頻問訊 月明曾上碧山無 魯・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・宗教でも、もうだいぶ古くシュライエルマッヘルが神を父であるかのように考えると云っている。孔子もずっと古く祭るに在すが如くすと云っている。先祖の霊があるかのように祭るのだ。そうして見ると、人間の智識、学問はさて置き、宗教でもなんでも、その根本・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・慶長四年の『孔子家語』、『六韜三略』の印行を初めとして、その後連年、『貞観政要』の刊行、古書の蒐集、駿府の文庫創設、江戸城内の文庫創設、金沢文庫の書籍の保存などに努めた。そうして慶長十二年には、ついに林羅山を召し抱えるに至った。家康がキリシ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」