そ・める【初める】例文一覧 26件

  1. ・・・ お袋は、それから、なお世間話を初める、その間々にも、僕をおだてる言葉を絶たないと同時に、自分の自慢話しがあり、金はたまらないが身に絹物をはなさないとか、作者の誰れ彼れはちょくちょく遊びに来るとか、商売がらでもあるが国府津を初め、日光、・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  2. ・・・覗目鏡を初める時分であった。椿岳は何処にもいる処がないので、目鏡の工事の監督かたがた伝法院の許しを得て山門に住い、昔から山門に住ったものは石川五右衛門と俺の外にはあるまいと頗る得意になっていた。或人が、さぞ不自由でしょうと訊いたら、何にも不・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・女の写真屋を初めるというのも、一人の女に職業を与えるためというよりは、救世の大本願を抱く大聖が辻説法の道場を建てると同じような重大な意味があった。 が、その女は何者である乎、現在何処にいる乎と、切込んで質問すると、「唯の通り一遍の知り合・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  4. ・・・場合に相談相手とするほどの友だちもなく、打ちまけて置座会議に上して見るほどの気軽の天稟にもあらず、いろいろ独りで考えた末が日ごろ何かに付けて親切に言うてくれるお絹お常にだけ明かして見ようとまずお絹から初めるつもりにてかくはふるまいしまでなり・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  5. ・・・町から小一里も行くとかの字港に出る、そこから船でつの字崎の浦まで海上五里、夜のうちに乗って、天明にさの字浦に着く、それから鹿狩りを初めるというのが手順であった。『まるで山賊のようだ!、』と今井の叔父さんがその太い声で笑いながら怒鳴った。・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  6. ・・・であるから賊になった上で又もや悶き初めるのは当然である。総て自分のような男は皆な同じ行き方をするので、運命といえば運命。蛙が何時までも蛙であると同じ意味の運命。別に不思議はない。 良心とかいう者が次第に頭を擡げて来た。そして何時も身に着・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  7. ・・・ 磯が火鉢の縁を忽々叩き初めるや布団がむくむく動いていたが、やがてお源が半分布団に巻纏って其処へ坐った。前が開て膝頭が少し出ていても合そうとも仕ない、見ると逆上せて顔を赤くして眼は涙に潤み、頻りに啜泣を為ている。「どうしたと云うのだ・・・<国木田独歩「竹の木戸」青空文庫>
  8. ・・・却って宿屋で酒を飲みおぼえたり女にからかったりする事を知り初める位が結局です。もし旅行を仕て真実に自然に接したり野趣の中に身をいたり、幾分かにしろ修業的に得益しようと思ったなら、普通の旅行をしても左程面白い事は有りますまい。悪くすると天晴な・・・<幸田露伴「旅行の今昔」青空文庫>
  9. ・・・「よオし、初めるぞ。さあ皆んな見てろ、どんなことになるか!」 親分は浴衣の裾をまくり上げると源吉を蹴った。「立て!」 逃亡者はヨロヨロに立ち上った。「立てるか、ウム?」そう言って、いきなり横ッ面を拳固でなぐりつけた。逃亡者は・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  10. ・・・やがてそれが溶け初める頃、復た先生は山歩きでもするような服装をして、人並すぐれて丈夫な脚に脚絆を当て、持病のリョウマチに侵されている左の手を懐に入れて歩いて来た。残雪の間には、崖の道まで滲み溢れた鉱泉、半ば出来た工事、冬を越しても落ちずにあ・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  11. ・・・ 夏近くなって山へ遊びに来る人がぼつぼつ見え初めるじぶんになると、父親は毎朝その品物を手籠へ入れて茶店迄はこんだ。スワは父親のあとからはだしでぱたぱたついて行った。父親はすぐ炭小屋へ帰ってゆくが、スワは一人いのこって店番するのであった。・・・<太宰治「魚服記」青空文庫>
  12. ・・・こういう物の運動に関係した問題に触れ初めると同時に、今までそっとしておいた力学の急所がそろそろ痛みを感ずるようになって来た。ロレンツのごとき優れた老大家は疾くからこの問題に手を附けて、色々な矛盾の痛みを局部的の手術で治療しようとして骨折って・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  13. ・・・ リストが音楽商の家の階段を気軽にかけ上がって、ピアノの譜面台の上に置き捨てられたショパンの作曲に眼をつけて、やがて次第に引入れられて弾き初める、そこへいったん失望して帰りかけたショパンがそっと這入って来て、リストと背中合せに同じ曲を弾・・・<寺田寅彦「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」青空文庫>
  14. ・・・七月になりかかると、秋風が立ち初める、とギバの難は影を隠してしまう。武州常州あたりでもやはり四月から七月と言っている」。また晴天には現われず「晴れては曇り曇っては晴れる、村雲などが出たりはいったりする日に限って」現われるとある。また一日じゅ・・・<寺田寅彦「怪異考」青空文庫>
  15. ・・・ 何処へ行こうかと避暑の行先を思案している中、土用半には早くも秋風が立ち初める。蚊遣の烟になお更薄暗く思われる有明の灯影に、打水の乾かぬ小庭を眺め、隣の二階の三味線を簾越しに聴く心持……東京という町の生活を最も美しくさせるものは夏であろ・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  16. ・・・ わたくしは雪が降り初めると、今だに明治時代、電車も自動車もなかった頃の東京の町を思起すのである。東京の町に降る雪には、日本の中でも他処に見られぬ固有のものがあった。されば言うまでもなく、巴里や倫敦の町に降る雪とは全くちがった趣があった・・・<永井荷風「雪の日」青空文庫>
  17. ・・・その時この鳶色の奥にぽたりぽたりと鈍き光りが滴るように見え初める。三層四層五層共に瓦斯を点じたのである。余は桜の杖をついて下宿の方へ帰る。帰る時必ずカーライルと演説使いの話しを思いだす。かの溟濛たる瓦斯の霧に混ずる所が往時この村夫子の住んで・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  18. ・・・兄はまた読み初める。「朝ならば夜の前に死ぬと思え。夜ならば翌日ありと頼むな。覚悟をこそ尊べ。見苦しき死に様ぞ恥の極みなる……」弟また「アーメン」と云う。その声は顫えている。兄は静かに書をふせて、かの小さき窓の方へ歩みよりて外の面を見・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  19. ・・・であろうとも、まず顔に目をひかれ初めるものであるという人間の素朴本然な順序に、すらりとのりうつって、こちらに顔を向けている三人の距離を、人間の顔というよすがによって踰えている。偶然によってではなくて、はっきりした考えをもって、芸術の虚構の効・・・<宮本百合子「あられ笹」青空文庫>
  20. ・・・この作品をたとえば、昨夜の露が葉末についていて、太陽が輝き初めるとそれが非常に美しく光る、しかしそれは消えて行く露である、そういう風な美しさ、美しさとしては「たけくらべ」は完成しています。一葉も大変代表的な立派な作家という風に見られておりま・・・<宮本百合子「婦人の創造力」青空文庫>
  21. ・・・ 伊織は京都でその年の夏を無事に勤めたが、秋風の立ち初める頃、或る日寺町通の刀剣商の店で、質流れだと云う好い古刀を見出した。兼て好い刀が一腰欲しいと心掛けていたので、それを買いたく思ったが、代金百五十両と云うのが、伊織の身に取っては容易・・・<森鴎外「じいさんばあさん」青空文庫>
  22. ・・・夜が明け初めると間もなくその日は晴れ渡るであろう。山々の枯れた姿の上には緑色の霞が流れていた。いつもの雀は早くから安次の新しい小屋の藁条を抜きとっては巣に帰った。が、一疋の空腹な雀は、小屋の前に降りると小刻みに霜を蹴りつつ、垂れ下った筵戸の・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  23. ・・・私は一人でいて彼の名を思い浮かべただけでも、もういらいらし初める。そしてそのいらいらする事が自分ながら癪にさわる。 彼に対する私の態度は純一の正反である。それがあたかも、彼に打ち砕かれたような感じをさえ私の内に起こさせる。私は彼の前にひ・・・<和辻哲郎「生きること作ること」青空文庫>
  24. ・・・彼女は機械的に何の特長もない演技をもって芝居を初める。やがて時が迫って来て彼女の特有な心持ちにはいると、突如全身の情熱を一瞬に集めて恐ろしい破裂となり、熱し輝き煙りつつあるラヴァのごとくに観客の官能を焼きつくす。その感動の烈しさは劇場あって・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>
  25. 一 過去の生活が突然新しい意義を帯びて力強く現在の生活を動かし初めることがある。その時には生のリズムや転向が著しく過去の生活に刺激され導かれている。そうしてすべての過去が「過ぎ去って」はいないことを思わせる。機縁の成熟は「過去」・・・<和辻哲郎「転向」青空文庫>
  26. ・・・睨み合う果てに噛み合いを初める。この地獄に似る混沌海の波を縫うて走る一道の光明は「道徳」である。吾人はここにおいて現代の道徳に眼を向ける。三 現代の因襲的道徳と機械的教育は吾人の人格に型を強いるものである。「人」として何らの・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>