でる【出る】例文一覧 56件

  1. ・・・が、彼は悪感を冒しても、やはり日毎に荷を負うて、商に出る事を止めなかった。甚太夫は喜三郎の顔を見ると、必ず求馬のけなげさを語って、この主思いの若党の眼に涙を催させるのが常であった。しかし彼等は二人とも、病さえ静に養うに堪えない求馬の寂しさに・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・彼が起き上がって縁に出ると、それを窺っていたように内儀さんが出て来て、忙しくぐるりの雨戸を開け放った。新鮮な朝の空気と共に、田園に特有な生き生きとした匂いが部屋じゅうにみなぎった。父は捨てどころに困じて口の中に啣んでいた梅干の種を勢いよくグ・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・ フレンチは罪人の背後から腕が二本出るのを見た。しかしそれが誰の腕だか分からなかった。黒い筒袖を着ている腕が、罪人の頭の上へ、金属で拵えた、円いのようなものを持って来て、きちょうめんに、上手に、すばやく、それを頸の隠れるように、すっぽり・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・饑渇に迫られ、犬仲間との交を恋しく思って、時々町に出ると、子供達が石を投げつける。大人も口笛を吹いたり何かして、外の犬を嗾ける。そこでこわごわあちこち歩いた末に、往来の人に打突ったり、垣などに打突ったりして、遂には村はずれまで行って、何処か・・・<著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外「犬」青空文庫>
  5. ・・・四囲の抑制ようやく烈しきにしたがってはついにこれに反逆し破壊するの挙に出る。階級といい習慣といい社会道徳という、我が作れる縄に縛られ、我が作れる狭き獄室に惰眠を貪る徒輩は、ここにおいて狼狽し、奮激し、あらん限りの手段をもって、血眼になって、・・・<石川啄木「初めて見たる小樽」青空文庫>
  6. ・・・と、いうと、腰を上げざまに襖を一枚、直ぐに縁側へ辷って出ると、呼吸を凝して二人ばかり居た、恐いもの見たさの徒、ばたり、ソッと退く気勢。「や。」という番頭の声に連れて、足も裾も巴に入乱るるかのごとく、廊下を彼方へ、隔ってまた跫音、次第に跫・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  7.  成東の停車場をおりて、町形をした家並みを出ると、なつかしい故郷の村が目の前に見える。十町ばかり一目に見渡す青田のたんぼの中を、まっすぐに通った県道、その取付きの一構え、わが生家の森の木間から変わりなき家倉の屋根が見えて心も・・・<伊藤左千夫「紅黄録」青空文庫>
  8. ・・・聞もかまわないで家にかえると親の因果でそれなりにもしておけないので三所も四所も出て長持のはげたのを昔の新らしい時のようにぬりなおして木薬屋にやると男にこれと云うきずもなく身上も云い分がないんでやたらに出る事も出来ないので化病を起して癲癇を出・・・<著:井原西鶴 訳:宮本百合子「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」青空文庫>
  9. ・・・昼間はとても出ることが出来なかった、日が暮れるのを待ったんやけど、敵は始終光弾を発射して味方の挙動を探るんで、矢ッ張り出られんのは同じこと。」「鳥渡聴くが、光弾の破裂した時はどんなものだ?」「三四尺の火尾を曳いて弓形に登り、わが散兵・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  10. ・・・椿岳は芳崖や雅邦と争うほどな巨腕ではなかったが、世間を茶にして描き擲った大津絵風の得意の泥画は「俺の画は死ねば値が出る」と生前豪語していた通りに十四、五年来著るしく随喜者を増し、書捨ての断片をさえ高価を懸けて争うようにもてはやされて来た。・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  11. ・・・丁度向うで女学生の頸の創から血が流れて出るように、胸に満ちていた喜が逃げてしまうのである。「これで敵を討った」と思って、物に追われて途方に暮れた獣のように、夢中で草原を駆けた時の喜は、いつか消えてしまって、自分の上を吹いて通る、これまで覚え・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  12. ・・・ 東京を出るときには、にぎやかで、なんとなく明るく、美しい人たちもまじっていた車室の内は、遠く都をはなれるにしたがって人数も減って、急に暗くわびしく見えたのでした。そのとき、汽車は、山と山の間を深い谷に沿うて走っていたのです。「まあ・・・<小川未明「青い星の国へ」青空文庫>
  13. ・・・翌日からもう商売に出るのを見かけた者がある。山本屋の前を通る時には、怨しそうに二階を見挙げて行くそうだ。私は見慣れた千草の風呂敷包を背負って、前には女房が背負うことに決っていた白金巾の包を片手に提げて、髪毛の薄い素頭を秋の夕日に照されながら・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  14. ・・・ 目安寺を出ると、暗かった。が、浜子はすぐ私たちを光の中へ連れて行きました。お午の夜店が出ていたのです。お午の夜店というのは午の日ごとに、道頓堀の朝日座の角から千日前の金刀比羅通りまでの南北の筋に出る夜店で、私はふたたび夜の蛾のようにこ・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  15. ・・・何処を押せば其様な音が出る? ヤレ愛国だの、ソレ国難に殉ずるのという口の下から、如何して彼様な毒口が云えた? あいらの眼で観ても、おれは即ち愛国家ではないか、国難に殉ずるのではないか? ではあるけれど、それはそうなれど、おれはソノ馬鹿だとい・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  16. ・・・それから自分は放浪の旅に出る。 仙台行きには、おせいもむろん反対だった。そのことでは「蠢くもの」時分よりもいっそう険悪な啀み合いを、毎晩のように自分は繰返した。彼女の顔にも頭にも生疵が絶えなかった。自分も生爪を剥いだり、銚子を床の間に叩・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  17. ・・・何だか身体の具合が平常と違ってきて熱の出る時間も変り、痰も出ず、その上何処となく息苦しいと言いますから、早速かかりつけの医師を迎えました。その時、医師の言われるには、これは心臓嚢炎といって、心臓の外部の嚢に故障が出来たのですから、一週間も氷・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  18. ・・・Crescendo のうまく出る――なんだか木管楽器のような気がする。 私のながらくの空想は、かくの如くにして消えてしまった。しかしこういうことにはきりがないと見える。この頃、私はまた別なことを空想しはじめている。 それは、猫の爪を・・・<梶井基次郎「愛撫」青空文庫>
  19. ・・・その音も善平の耳に障りて、笑ましき顔も少し打ち曇りしが、それはどんな人であっても探せばあらはきっと出る、長所を取り合ってお互いに面白く楽しむのが交際というものだ。お前はだんだん偏屈になるなア。そんな風で世間を押し通すことは出来ないぞ。とさす・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  20. ・・・ かねて四郎と二人で用意しておいた――すなわち田溝で捕えておいたどじょうを鉤につけて、家を西へ出るとすぐある田のここかしこにまきました。田はその昔、ある大名の下屋敷の池であったのを埋めたのでしょう、まわりは築山らしいのがいくつか凸起して・・・<国木田独歩「あの時分」青空文庫>
  21. ・・・ かくて智恵と力をはらんで身の重きを感じたツァラツストラのように、張り切った日蓮は、ついに建長五年四月二十八日、清澄山頂の旭の森で、東海の太陽がもちいの如くに揺り出るのを見たせつなに、南無妙法蓮華経と高らかに唱題して、彼の体得した真理を・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  22. ・・・ 事務室から出ることを許されて、兵舎へ行くと、同年兵達は、口々にぶつ/\こぼしていた。「栗島。お前本当に偽札をこしらえたんか?」 松本がきいた。「冗談を云っちゃ困るよ。」彼は笑った。「憲兵がこしらえたらしいと云いよったぞ・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  23. ・・・と聞いたのは、吾が夫と中村という人とは他の教官達とは全く出が異っていて、肌合の職人風のところが引装わしてもどこかで出る、それは学校なんぞというものとは映りの悪いことである。それを仲の好い二人が笑って話合っていた折々のあるのを知っていたか・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  24. ・・・子孫の計がいまだならず、美田をいまだ買いえないで、その行く末を憂慮する愛着に出るのもあろう。あるいは単に臨終の苦痛を想像して、戦慄するのもあるかも知れぬ。 いちいちにかぞえきたれば、その種類はかぎりもないが、要するに、死そのものを恐怖す・・・<幸徳秋水「死刑の前」青空文庫>
  25. ・・・何時でも眼やにの出る片方の眼は、何日も何日も寝ないために赤くたゞれて、何んでもなくても独りで涙がポロポロ出るようになった。 角屋の大きな荒物屋に手伝いに行っていたお安が、兄のことから暇が出て戻ってきた。「お安や、健は何したんだ?」・・・<小林多喜二「争われない事実」青空文庫>
  26. ・・・とさされたる猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの辞退を、酒席の憲法恥をかかすべからずと強いられてやっと受ける手頭のわけもなく顫え半ば吸物椀の上へ篠を束ねて降る驟雨酌する女がオヤ失礼と軽く出るに俊雄はただもじもじと箸も取らずお銚・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  27. ・・・七「困ったって、私は人の家へ往ってお辞儀をするのは嫌いだもの、高貴の人の前で口をきくのが厭だ、気が詰って厭な事だ、お大名方の御前へ出ると盃を下すったり、我儘な変なことを云うから其れが厭で、私は宅に引込んでゝ何処へも往かない、それで悪けれ・・・<著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三「梅若七兵衞」青空文庫>
  28. ・・・緑も添い、花も白く咲き出る頃は、いかにも清い秋草の感じが深い。この薫が今は花のさかりである。そう言えば、長く都会に住んで見るほどのもので、町中に来る夏の親しみを覚えないものはなかろうが、夏はわたしも好きで、種々な景物や情趣がわたしの心を楽し・・・<島崎藤村「秋草」青空文庫>
  29. ・・・馬はウイリイに、親烏が立って出るまで待っていて、その留守に木へ上って、巣にいる子烏を一ぴき殺して、命の水を入れるびんを、そっと巣の中に入れておくように教えました。 ウイリイはそのとおりにしてびんを入れて下りて来て、じっと見ていました。そ・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  30. ・・・もっと自由な立場で、極く初等的な万人むきの解析概論の出ることを、切に、希望している次第であります。」めちゃめちゃである。これで末弟の物語は、終ったのである。 座が少し白けたほどである。どうにも、話の、つぎほが無かった。皆、まじめになって・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>