・・・百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ七 配偶者ノ直系尊・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・二二※が四といえることは智識でこそ合点すべけれど、能く人の言うことながら、清元は意気で常磐津は身があるといえることは感情ならでは解らぬことなり。智識の眼より見るときは、清元にもあれ常磐津にもあれ凡そ唱歌といえるものは皆人間の声に調子を付けし・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・我々が斯うして生きてるのは即ち「アンノーン、ハッピネス」じゃないか。ただ気が付かずに迷ってるだけだ。聖人は赤児の如しという言葉が、其に幾らか似た事情で、かねて成り度いと望んでた聖人に弥々成って見れば、やはり子供の心持に還る。これ変ったと云え・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・その跡に跟きて主人の母行き、娘行き、それに引添いて主人に似たる影行 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・そういう時はあらゆる物事が身に近く手に取るように思われて己も生きた世界の中の生きた一人と感じたものだ。そういう時はあらゆる人の胸を流れる愛の流が、己の胸にも流れて来て、胸が広うなったような心持がしたものだ。今はそんな心持は夢にもせぬ。この音・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・てこの者は死刑に処せられたばかりでなく、次の世には粟散辺土の日本という島の信州という寒い国の犬と生れ変った、ところが信州は山国で肴などという者はないので、この犬は姨捨山へ往て、山に捨てられたのを喰うて生きて居るというような浅ましい境涯であっ・・・ 正岡子規 「犬」
・・・それから船頭が、板刀麺が喰いたいか、飩が喰いたいか、などと分らぬことをいうて宋江を嚇す処へ行きかけたが、それはいよいよ写実に遠ざかるから全く考を転じて、使の役目でここを渡ることにしようかと思うた。「急ぎの使ひで月夜に江を渡りけり」という事を・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・この勢いで帰って三角を勉強しようという意気込であった。ところが学校の門を這入る頃から、足が土地へつかぬようになって、自分の室に帰って来た時は最早酔がまわって苦しくてたまらぬ。試験の用意などは思いもつかぬので、その晩はそれきり寐てしまった。す・・・ 正岡子規 「酒」
・・・ 伝令はいそがしく羊歯の森のなかへはいって行きました。 霧の粒はだんだん小さく小さくなって、いまはもう、うすい乳いろのけむりに変わり、草や木の水を吸いあげる音は、あっちにもこっちにも忙しく聞こえだしました。さすがの歩哨もとうとうねむ・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・一つの壁がまだそのままで見附けられ、そこには三人の天童子が描かれ、ことにその一人はまるで生きたようだとみんなが評判しましたそうです。或るよく晴れた日、須利耶さまは都に出られ、童子の師匠を訪ねて色々礼を述べ、また三巻の粗布を贈り、それから半日・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
出典:青空文庫