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・・・ 芳本は日増に不快と焦燥の念に悩まされて、暗い顔してうっそりかまえている耕吉に、毎日のようにこんなことを言いだした。「まさか……」 惣治はいよいよ断末魔の苦しみに陥っていることを思いながらも、耕吉もそうした疑惑に悩まされて行った・・・
葛西善蔵
「贋物」
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・・・頬杖ついて、うっそりしている。怠けものは、陸の動物にたとえれば、まず、歳とった病犬であろう。なりもふりもかまわず、四足をなげ出し、うす赤い腹をひくひく動かしながら、日向に一日じっとしている。ひとがその傍を通っても、吠えるどころか、薄目をあけ・・・
太宰治
「懶惰の歌留多」