・・・されば DS が大慈大悲の泉源たるとうらうえにて、「じゃぼ」は一切諸悪の根本なれば、いやしくも天主の御教を奉ずるものは、かりそめにもその爪牙に近づくべからず。ただ、専念に祈祷を唱え、DS の御徳にすがり奉って、万一「いんへるの」の業火に焼か・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・ 耳許も清らかに、玉を伸べた頸許の綺麗さ。うらすく紅の且つ媚かしさ。 袖の香も目前に漾う、さしむかいに、余り間近なので、その裏恥かしげに、手も足も緊め悩まされたような風情が、さながら、我がためにのみ、そうするのであるように見て取られ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・ ――家、いやその長屋は、妻恋坂下――明神の崖うらの穴路地で、二階に一室の古屋だったが、物干ばかりが新しく突立っていたという。―― これを聞いて、かねて、知っていたせいであろう。おかしな事には、いま私たちが寄凭るばかりにしている、こ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・して気が狂った、御新造は、以前、国家老の娘とか、それは美しい人であったと言う…… ある秋の半ば、夕より、大雷雨のあとが暴風雨になった、夜の四つ時十時過ぎと思う頃、凄じい電光の中を、蜩が鳴くような、うらさみしい、冴えた、透る、女の声で、キ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 向島のうら枯さえ見に行く人もないのに、秋の末の十二社、それはよし、もの好として差措いても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中、朋友なる給水工場の重役の宅で一盞すすめられて杯の遣取をする内に、娶るべき女房の身分に就いて、忠告・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・一昨日の晩宵の口に、その松のうらおもてに、ちらちら灯が見えたのを、海浜の別荘で花火を焚くのだといい、否、狐火だともいった。その時は濡れたような真黒な暗夜だったから、その灯で松の葉もすらすらと透通るように青く見えたが、今は、恰も曇った一面の銀・・・ 泉鏡花 「星あかり」
・・・――うちの人じゃあない、世話になって、はんけちの工場うららかな朝だけれど、路が一条、胡粉で泥塗たように、ずっと白く、寂然として、家ならび、三町ばかり、手前どもとおなじ側です、けれども、何だか遠く離れた海際まで、突抜けになったようで、そこに立・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・そして、雪もたいてい消えてしまって、ただ大きな寺のうらや、畑のすみのところなどに、いくぶんか消えずにのこっているくらいのものでありました。 太郎は、外に出ましたけれど、往来にはちょうど、だれも友だちが遊んでいませんでした。みんな天気がよ・・・ 小川未明 「金の輪」
・・・そして、おばあさんはさきに立って、戸口から出てうらの花園の方へとまわりました。少女はだまって、おばあさんのあとについて行きました。 花園には、いろいろの花が、いまをさかりと咲いていました。ひるまは、そこに、ちょうや、みつばちが集まってい・・・ 小川未明 「月夜とめがね」
・・・九かいの うら、やっと 二死まんるいに こぎつけました。ここで ヒットが 一つ でれば、どうてんと なるのです。「だれを だそうか。」と、東校の せんしゅたちは そうだんを しました。「正ちゃん、きみは あてると、いい たまを ・・・ 小川未明 「はつゆめ」
出典:青空文庫