・・・電燈でも、飛行機でも、潜水艇でもまたタンク戦車のごときものすら欧州大戦よりずっと以前に小説家によって予想されている。市井の流行風俗、生活状態のようなものはもちろん、いろいろな時代思潮のごときものでも、すぐれた作者の鋭利な直観の力で未然に洞察・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ この表中にヨーロッパやアメリカなどの火山が出て来るのを見て笑う人もあろうと思うが、しかし南洋語と欧州語との間の親族関係がかなり明らかにされている今日、日本だけが特別な箱入りの国土と考えるのはあまりにおかしい考えである。これについてはど・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
何事でも「世界第一」という名前の好きなアメリカに、レコード熱の盛んなのは当然のことであるが、一九二九年はこのレコード熱がもっとも猖獗をきわめた年であって、その熱病が欧州にまでも蔓延した。この結果としてこの一年間にいろいろの・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・北米大陸では大山脈が南北に走っているためにこうした特異な現象に富んでいるそうで、この点欧州よりは少なくも一つだけ多くの災害の種に恵まれているわけである。北米の南方ではわがタイフーンの代わりにその親類のハリケーンを享有しているからますます心強・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後特に外科医のほうで注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出て来た。こうなると今度はそれに使・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ ある一つのスペルマトゾーンの運動径路がきわめてわずか右するか左するかでナポレオンが生まれるか生まれぬかが決定し、従って欧州の歴史が決定したと言った人があるが、ある人間のある瞬間に宇宙線が脳のどの部分をどう通過するかによって、その人の一・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ こんな話をしているうちにも私の連想は妙なほうへ飛んで、欧州大戦当時に従来ドイツから輸入を仰いでいた薬品や染料が来なくなり、学術上の雑誌や書籍が来なくなって困った事を思い出した。そしてドイツ自身も第一にチリ硝石の供給が断えて困るのを、空・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・ 欧州大戦前におけるカイゼル・ウィルヘルムのドイツ帝国も対外方針の手首が少し堅すぎたように見受けられる。その結果が世界をあのような戦乱の過中に巻き込んだのではないかという気がする。ともかくもこれにもやはり手首の問題が関係していると言って・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・たとえて言わば奥州街道から来るか東海道から来るか信越線から来るかもしれない敵の襲来に備えるために、ただ中央線の沿線だけに哨兵を置いてあるようなものである。 新聞記事によると、アメリカでは太平洋上に浮き飛行場を設けて横断飛行の足がかりにす・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・また江戸は奥州のかたへ属して。気質も京人のようにはなし。唐画にも。和画にも似ぬ風はのみ込まぬ事にて。わが自身工夫したりと言いては。それは法がないと言いて。請け取らず。しかれども。画はその物の形を見て。その形に似るをよしとす。法手本とするとこ・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
出典:青空文庫