・・・ 第一次欧州大戦後のドイツが、ワイマール憲法をきめて、共和国となった当時最初の婦人参政権が行使され、一時に三十人の婦人代議士が出た。今年、はじめて選挙権を与えられた第二次大戦後のフランス婦人たちは三十二名の婦人代議士を選出し、なかに十七・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・世にも胸のわるいのは、欧州婦人がおもちゃにする、小さな、ひよわい、骸骨に手入れの届いた鞣皮を張りつけたような Pocket dog 或は Sleeve dog だ。私は、悠々した、相当大きい、誠実で熱烈なところのある毛の厚い犬を好む。Bre・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 菊池寛のこの人生と歴史へのテーマの本質のありようが、芥川とどんなに相反するものであったかということは、大正末期、欧州大戦後の日本の社会が画期的波瀾にめぐり会ったとき、芥川はあのような生涯をとじ、菊池寛は「真珠夫人」等によって大衆文学の・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・第一次欧州大戦が終ったばかりで、人道的な英雄としてベルギーの皇帝・皇后がコロンビア大学に招待された初夏の光景は壮麗に思い出される。勇敢な看護婦・皇后エリザベスは小柄で華奢で、しかも強靭な身ごなしで、歩道によせられた自動車から降り立った。その・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・そして、あの当時にあっては大変ハイカラーで欧州風の教養の匂いの高かった作品の中で、母なる作者の愛情と観察につつまれつつ活躍していた二人のヴァガボンドのうち、一人は言語学者としてイタリーへの交換学生として旅立っており、一人はもう若い物理学者と・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・世界市場の争奪のため、危機にあった欧州の空気はその硝煙の匂いと一緒に、急速に動揺しはじめた。キュリー夫人は土用真盛りの、がらんとしたアパートの部屋でブルターニュの娘たちへ手紙を書いた。「愛するイレーヌ。愛するエーヴ。事態がますます悪化し・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・が、著者の如き分析力によってふわけされた上、昔は普通のスタイルで書いたジェームス・ジョイスが、なぜ欧州大戦後、人間意識の流れをこういう風に扱い出したか、その点を心理学的に究明することは、意味ないことであろうか。著者は、谷崎潤一郎が初期には具・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・そして、このことは徳永、小田切の論争その他を、個人的に対立した見解の応酬に陥らせ勝であるばかりか「勤労者文学」の規定そのもののあいまいさを客観的に見極めて、民主主義文学運動全体を発展させてゆく評価のよりどころさえも見失わせる危険をもっている・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・というのは奥州の方の話で、一人で美しい女に思いを寄せた男は、必ず申込みの印に「錦木」という木の枝を、その女の門口にさしておくという風習があって、その枝が取入れられれば承知したことになり、若し女が承知しない時には、後からあとから、幾本かの錦木・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・ 三 代用食 このあいだ都下のある新聞の投書欄で、代用食について一くみの応酬が行われた。 はじめ投書した某氏は男で某紙の家庭欄に紹介されている代用食の製法にしたがってためしてみたらたいへんどっさり砂糖がいっ・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫