・・・どうせ一晩泊りだもん――あっちじゃ伯母さんが来るだろうかねえ」「さあ」「来りゃいいのにね、そうすりゃこの間のことだってあのまんま何てことなくなっちゃっていいんだがね」「来るだろう」 空気枕に頭を押しつけこれ等の会話をききつつ・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・ 炊事当番の少年少女が、太って大きい炊事がかりの小母さんの手伝いをしてアルミの鉢を洗っている。小母さんは、漏れ手で元気に働いている子供たちを示しながら、「どうです? ソヴェトのピオニェールは! 理屈を頭で知っているばかりじゃないでし・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 去年の六月、私は祖母とその村にいた。 毎日夕焼空が非常に美しかった。東京の市中では想像もつかない広い空、耕地、遠くの山脈。竹やぶの細い葉を一枚一枚キラキラ強い金色にひらめかせながら西の山かげに太陽が沈みかけると、軽い蛋白石色の・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・隣家の小母さんであるならば、鬼女もその娘に手をのばしはしなかったろう。母子関係の常套には新しい窓がひらかれる必要がある。 被害者 犯罪に顛落する復員軍人が多いことについて、復員省は上奏文を出し「聖上深く御憂慮」・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・彼らが通過した後には何が残るでしょう。伯母さんたちの消息も全く不明です」と伝えている。 キュリー夫人の不幸な故国ポーランド、しかし愛と誇とによって記念されているポーランド。伯母というのは彼女の愛する姉たちである。スクロドフスキー教授の末・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・というのを見ると風邪でもひいているのでしょう、のどを白い布でまき、縞の着物を着た半白の五十越したおばさんが、蒼白いけれどそれは晴れやかな若々しい様子で隣の、これもなかなかしゃんとした小母さんと話しています。やや乱れかかった白髪と、確かり大き・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・もうよっぽど前から起きて働いていた小母さんが、外が明るくなったのでフッと電燈を消した。 コツコツまだ人通りのない道の上を歩いて、長い棒をかついだ婦人点燈夫が街燈の灯を消して行く。 日は窓々をひろく照らすようになって、サア、家々の掃除・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・オーリャが読み終ると、赤い布で白髪をつつみ、腕組をしたままじっと聞いていた六十八歳のアガーシャ小母さんがつよい声で云った。「見ていろ! 世界のプロレタリアはどうしたって勝たずにはいないんだ。わたし達は元この工場でどんな具合に搾られていた・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、 ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?ときいた。ワロージャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見ながら、 ――巻パンが入ってる。と云った・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ 大きい大きいニッケル湯沸しの横に愛嬌のいい小母さんが立って一杯三哥のお茶をのませ、菓子などを売る喫茶部は殷やかな話し声笑い声に満ちている。 体育室の設備のよさは、プロレタリア・スポーツの誇りだ。 医務室がある。 法律相談所・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫