・・・しかしながら真底からおぼこな二人は、その吉野紙を破るほどの押がないのである。またここで話の皮を切ってしまわねばならぬと云う様な、はっきりした意識も勿論ないのだ。言わば未だ取止めのない卵的の恋であるから、少しく心の力が必要な所へくると話がゆき・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ いくら二十にはなって居ても母親のそばで猫可愛がりにされつけて居たお君には、晦日におてっぱらいになるきっちりの金を、巧くやりくって行くだけの腕もなかったし、一体に、おぼこじみた女なので長い間、貧乏に馴れて、財布の外から中の金高を察しるほ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・「それをほんとうにネエ、なんて云うほど私の心はおぼこじゃありゃしない。だから私なんか死ぬまで別々の家に住んで、お互に暮し向の事なんか一寸も知りあわずに居た方がいいとも思ってる……」「そいじゃ張合がないんじゃないか」「だってしよう・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫