・・・それは緩急によって畳ねて、比較的急ぐものを上にして置くのである。 木村は座布団の側にある日出新聞を取り上げて、空虚にしてある机の上に広げて、七面の処を開ける。文芸欄のある処である。 朝日の灰の翻れるのを、机の向うへ吹き落しながら読む・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・この伴奏は、幸にして無頓著な聴官を有している私の耳をさえ、緩急を誤ったリズムと猛烈な雑音とで責めさいなむのである。 私は幾度か席を逃れようとした。しかし先輩に対する敬意を忘れてはならぬと思うので、私は死を決して堅坐していた。今でも私はそ・・・ 森鴎外 「余興」
・・・皇室に対して忠であることは、「一旦緩急あれば義勇公に奉ずる」ことであった。対内的でなくして対外的であった。徳川時代の主従関係のように個人的なものではなく、対国家の関係であった。これだけの相違が我々父子の間に存している。その事をまず小生は前記・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫