・・・一段高いところにちょこなんと首だけ出して、古くさい法官帽に涎かけのような模様のついた服を着た裁判官がパラ・パラ着席しています。看守や巡査が多勢います。丹野せつ子やその他二人ばかりの婦人闘士の姿も見えます。 傍聴人が席についてしまうと、宮・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・この二つの目立つ傾向は、例えばゴーリキイを記念するために多くの人々が執筆したごく短い感想の中にも看取された。 私は、そのいずれもが、ゴーリキイ自身の発展の意義や彼と新しい歴史的世代の文学の生長との関係を、正当にとらえていないことを感じた・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・女監守が、無茶に私共をいじめでもすりゃ、ひとのことだって黙ってやしないからね。文句を云うし、どんな偉い人だって目の下で、どこまででも持ち出して行くから、ビクビクものなんですよ」 或る時女監守が女囚の一人を理由なく殴ったということから、独・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 夜前、神明町辺の博士の家とかに強盗が入ったのがつかまった。看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場じゅうが聞いている。二つの監房に二十何人かの男が詰っているがそれらはスリ、かっぱらい、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・留置場の女のところは一杯で、もう入れられないと、看守がことわった。「何だって、今夜はァあとからあとからつっちェくるんだ」と看守が不満そうに抗議した。留置場は一杯になっていた。小林多喜二のところへ来た人たちで、少くとも女の室は満員となっていた・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ロシアの民衆が過去にもっていた歴史的な桎梏の性質と、今日の事情との間に十九年の歳月が与えた飛躍の実質を看取したであろう。旧社会で、卑俗な日常の幸福の可能が、多く無知と無気力と批判力の喪失にかかっていることを洞察し、それに抗したかぎりジイドは・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・としての生活をして来て、軍規の野蛮さ、絶対命令に対するはかない抵抗としての兵士たちの仮病を見破りつづけて来た人々。死ぬものを「一丁あがり」と看守がいうような牢獄生活をつづけて来た人々。そういう不幸な痕跡をもった人々がきょうの情勢を主観的にせ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・本郷の帝国大学のある本富士警察の留置場、学校の多い西神田署の留置場などは、東京の警察の乱暴な留置場の中でも、最も看守の粗暴なところであった。帝大の学生そのほか諸学校学生で、社会科学の研究をしているくらいの青年たちと、条理において論判したら、・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 面会に行ったとき、面会所の窓の切り穴から看守につきそわれ編笠を足もとにおいてあらわれる宮本の現実の姿は、頭をクルクル刈りにして着ぶくれ、背が低くなったように見えるのである。 鶯 一月末のある夜明けがた起きて仕事をし・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・被告宮本ただ一人、傍聴者は弁護士と妻と看守ばかりという法廷であった。戦争に気を奪われ左翼の存在を忘れさせられた人々は殺人の公判には傍聴に入っても治安維持法の公判廷には姿を見せなくなった。治安維持法の意味を知り、公判に関心をもつ人々は危険をお・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫