・・・「きゃあん。きゃあん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」二 白はやっと喘ぎ喘ぎ、主人の家へ帰って来ました。黒塀の下の犬くぐりを抜け、物置小屋を廻りさえすれば、犬小屋のある裏庭です。白はほとんど風のように・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・「きゃあ――」と笑って、衝と駈けざまに、男のあとを掛稲の背後へ隠れた。 その掛稲は、一杯の陽の光と、溢れるばかり雀を吸って、むくむくとして、音のするほど膨れ上って、なお堪えず、おほほほほ、笑声を吸込んで、遣切れなくなって、はち切れた・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・には、もう、みんな、きゃあ、きゃあ。ドロンドロン式でなく、心理的なので、面白い。あんまり騒いだので、いま食べたばかりなのに、もうペコになってしまった。さっそくアンパン夫人から、キャラメル御馳走になる。それからまた、ひとしきり恐怖物語にみなさ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・「わしが死んでも、たかい旅費つこうてもどってこんでもええが、おとっさんが死んだときゃあ、もどってきておくれなァ」 三吉はうなずいた。うなずきながら歩きだした。途中でも、まだ見おくってるだろう母親の方をふりむかなかった。――土堤道の杉・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 気をつけんきゃあならん、なあ、 金と子の縁にうすいと出て居る。と云われたのが事実らしく思われて、暗い気持になった。 帯の結び様でも、指環の形でも、いつの間にか、見も知らなかった様なのが出て居た。お君は、一つ一つの写真に・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ だから逃げる事だきゃあ上手だって自慢してたっけが今度って今度はもう駄目だろうねえ。「そうねえ何んしろ繩だもの、きっと殺されるのねえ、あれは…… だけど私あの時は、可哀そうより気味の好い方が沢山だったわ、ほんとにもう何かと云って・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
出典:青空文庫