・・・もっともこのかみ合わせがかなりぎしぎしときしるので、その減摩油としては行燈のともし油を綿切れに浸ませて時々急所急所に塗りつけていた。それで取っ手を回すと同じリズムでキュル/\/\と一種特別な轢音を立てるのであった。「みくり」を通過して平たく・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・その上に主役となる老優の渋くてこなれた演技で急所急所を引きしめて行くから、おそらくあらゆる階級の人が見て相当楽しめる映画であろうと思われる。しかしユダヤ人というものの概念のはなはだ希薄な日本人には、おそらくこの映画の本来のねらいどころは感ぜ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そういう場合において、学者は現象の起こっている最中に電光石火の早わざで現象の急所急所に鋭利な観察力の腰刀でとどめを刺す必要がある。そうすれば戦いのすんだあとで、ゆるゆる敵を料理して肉でも胆でも食いたければ食うことができる。 実験的科学で・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・分量を少なく、出来るだけ簡易平明にして、しかも主要な急所を洩れなく、また実に適切な例を使って説明するという行き方であり、また如何なる教科書とも類を異にしたオリジナルなものであったという事は同君の講義を聞いた高弟達の異口同音の証言によって明ら・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・粗末なようでも、急所がしっかりしている。すべてが使用の目的を明確に眼前に置いて設計され製造されている。これに反して日本出来のは見掛けのニッケル鍍金などに無用な骨を折って、使用の方からは根本的な、油の漏れないという事の注意さえ忘れている。・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・かなり複雑な科学上の事実や理論でも気持ちのいいように急所をのみ込んだ。世間に起こっているいろいろな出来事でも、その事がらの表面に現われている現象よりも、その現象の底にある原動力のほうにすぐに目をつけていた。他人の言行でもそれを通して直接に腹・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・男を擽ぐる急所を心得てるんだからね」「何とでもおっしゃい。どうせあなたには勝いませんよ」と、お梅は立ち上りながら、「御膳はお後で、皆さんと御一しょですね。もすこししてからまた参ります」と、次の間へ行ッた。 誰が覗いていたのか、障子を・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・作物を読んで、こりゃ何となく身に浸みるとか、こりゃ何となく急所に当らぬとかの区別はある。併しそれが直ちに人生に触れる触れぬの標準となるんなら、大変軽卒のわけじゃないか。引緊った感を起させる、起させぬの別と、人生に触れる、触れぬとの間にゃ大な・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・感情そのもののせつない動きが、いなずまのように社会の価値判断の急所を射つらぬいてゆく。そのような殺しても殺しても生きる命としての抵抗力、強い生活感覚、それこそが、きょうの歴史を生き進んでいるわたしたちの人民的センスであり、抵抗の源泉であると・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 第一に、どんな小さいどの陣営の作品をとりあげた場合でも、その批評をよむと、ハハア、小説を読むときはこういうところが急所なんだナと納得のゆくように批評を書いて行くことである。 高度な理論に関するものでも、もしその人が全体の関係におい・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
出典:青空文庫