・・・そういう愛情は日本の社会でいわば公認の愛の局面であるが、自分に向けられる母の愛、気づかい、心配などを、有難いとともに漠然負担に感じないで暮している娘さんたちが今日はたして何人あるだろうか。日本の女の自己犠牲の深さということを一方においてみる・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・なるほど、科学の本としてとりあげられている題目は重要であるが、書き方は子供の印象に入りやすい方法で、従って局面も限って触れられている。この本に書いてあるほどのことなら、文化に関心をもっている大人が、一人のこさず皆知っているといえるだろうか。・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・その共感にひかされて、三好十郎の毒舌も、しまいはブツブツ、現在の肉体派や中間小説が、現代文学の新しい局面を展くためには、無益であるばかりか有害でさえあるという事実を批判しきれなかった。 その討論の時期に、伊藤整も東京新聞の文芸欄で発言し・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・しかし、左翼作家のすべてがそのような大主題を、解放史の全局面から把握し、而も素晴らしい新手法で芸術品に仕上げる程の才能をもって生れているとは云えない。ファジェーエフの「壊滅」、ショーロホフの「静かなドン」などはよい作品だが、国内戦は局部的に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・現実のそれぞれの局面に付せられている名称や説明は、それとして現実の実際の解明と等しいものではないことが生活感情としては何となし直感されている。だがその現実の二重焼つけのような映像に対して、どんな態度かと云えば極めて心理的な麻痺の状態におかれ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・文学についての新しい見かた、人間の良心というものの現実生活に即しての新局面の展開が、文学の上に行われるようになった。有島武郎、芥川龍之介という二人の作家の死は、日本文学の成長を語るとき、見落すことの出来ない凄じい底潮の反映として考えられると・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 民主主義文学の作品は、多種多様な題材をとらえて、千変万化の局面を描き出さなければならない。どんどん労働者作家がそだてられなければならない。これはすべての人の要求である。しかし、現実の問題として、一九四六年以来、いくたりかのびて来ている・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・ このヒューマニズムは、文学を社会的、現実的局面とかたく結ぼうとする意慾、現実では分裂の状態におかれている「知性と感性との統一、背馳している意識と行動とに人間的な統一を与え、すこやかに逞しい人生を発見し、創造しよう」と欲する感情において・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・既に自身の文学の対象として真に生ける現実と人間とを捉えることをやめていた作家たちが、あらゆる意味で最も近代的に錯綜した一社会現象として現れている事変の局部に傍観的な記録者として近づいたとしても、その全局面を歴史の上に把握出来ないのはもとより・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・こんにちの歴史の局面について世界史的に、大局的に判断することが可能なような知的な自由というものを知識人は与えられていない。誰でも読む新聞、誰でも聴くラジオと軍歌、演説が知識人の知識の糧であり得るにすぎない。今日ほど、知識人が客観的に大衆なみ・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
出典:青空文庫