・・・一寸法師の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」「ではそのお三かたをお召し抱えなすったのはどういう訣でございますか?」「それはもとより鬼が島を征伐したいと志した故、黍団子をやっても召し抱えたのだ。――・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・空想文学に対する倦厭の情と、実生活から獲た多少の経験とは、やがて私しにもその新らしい運動の精神を享入れることを得しめた。遠くから眺めていると、自分の脱けだしてきた家に火事が起って、みるみる燃え上がるのを、暗い山の上から瞰下すような心持があっ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・禽獣に化して真の幸福を感ずるような人間は、神に最も倦厭せられます。いちどは、こらしめのため、あなたを弓矢で傷つけて、人間界にかえしてあげましたが、あなたは再び烏の世界に帰る事を乞いました。神は、こんどはあなたに遠い旅をさせて、さまざまの楽し・・・ 太宰治 「竹青」
・・・しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事件となって、官権と社会主義者はとうとう犬猿の間となってしまった。諸君、最上の帽子は頭にのっていることを忘る・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫