・・・ 私は私の恋人が、劇場の廊下になったり、大きな邸宅の塀になったりするのを見るに忍びません。ですけれどそれをどうして私に止めることができましょう! あなたが、若し労働者だったら、此セメントを、そんな処に使わないで下さい。 いいえ、よう・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・今日は鼓腹撃壌とて安堵するも、たちまち国難に逢うて財政に窘めらるるときは、またたちまち艱難の民たるべし。いわんや、かの戦争の如き、その最中には実に修羅の苦界なれども、事、平和に帰すれば禍をまぬかるるのみならず、あるいは禍を転じて福となしたる・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・グリュントゲンスは才能はあったが、あとではナチスに加って、ベルリン国立劇場支配人と立身したような性格であったため、エリカの結婚生活はながくつづかず、離婚して故郷のミュンヘンにかえった。そして、国立劇場や小劇場に出演した。ショウの「セント・ジ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・作家の団体は有志者を募集し、メイエルホリドの若手俳優や劇場労働青年の遠征隊と一緒に、特別仕立の列車で文化宣伝にモスクワを立った。 いろいろ面白い農村新生活の記録の報告が現れた。国立出版所は、五カペイキや二十カペイキの廉価版を作って、それ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・その客観のうすら明りのなかに、何とたくさんの激情の浪費が彼女の周囲に渦巻き、矛盾や独断がてんでんばらばらにそれみずからを主張しながら、伸子の生活にぶつかり、またそのなかから湧きだして来ていることだろう。「伸子」で終った一巡の季節は、「二・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・ 例えば、左翼劇場で上演した「銅像」を、みんなどんなによろこんで観、あとまでその印象をもっているか。 ところが、諷刺は元来非常に活々した社会性をもっているものだけに、諷刺の対象が時代の影響をうけて変遷するばかりではない。諷刺するもの・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・それらの点で作者の情熱ははっきり感じられるのであるが、果して作者は葉子の苦痛に満ちた激情的転々の根源を突いて、それを描破し得ているということが出来るであろうか。 私の感想では、作者は葉子と共に、あの面、この面、と転々しつつ、遂に葉子の不・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・が読者にあたえる印象の総和は、錯雑と神経衰弱的亢奮と個人的な激情の爆発とである。行文のあるところは居心持わるく作者の軽佻さえ感ぜしめる。これはどこから来るのであろうか。「子供の世界」という小市民的な一般観念で、階級性ぬきに子供の生活を「・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・無口で、激情的で、うつりゆく時世を犇々と肌身にこたえさせつつギリギリのところまで鉄瓶を握りしめている心持が肯ける。久作という人物は、しかしあの舞台では本間教子の友代の、厚みと暖かさと活気にみちた自然な好技に、何とよく扶けられ、抱かれているこ・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・低くあらしめられて、思いの鬱屈している精神にとって、高まり伸び達しようとする翹望は、どんなに激情をゆするだろう。昭和初頭から、それがわずか十年たらずの短い間に八つ裂にされてしまったまでの日本の左翼運動とその思想が、今日かえりみて、多くの人々・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫