・・・新聞週間がはじまったときの街頭録音で、発言した人々の圧倒的な希望は、新聞の公器性を自覚してほしいこと、正確な事実に立つ報道をしてもらいたいことだった。これは、全購読者の希望である。 新聞と異常で衝撃的なニュースとを結びつけて期待している・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・全体的に見て、今日の新聞そのものの性質が、明治初年の天下の公器としての自由性を失われているのであるから、現象的にニュースの断片を注ぎ込まれ、物価騰貴とその末葉のやりくりを知らされても、事象の本源までは新聞では迚も分らなくなって来ている。・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・勤めている若い女が官僚風な空気の中でくしゃくしゃする気分はかかれていますが、ルポルタージュというものは、後記にかかれているような気分と本文の気分の間に漂う自分を自分で把握した上で具体的に書かれるものでしょう。〔一九四〇年五月〕・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・自分の欲求や野心から発する息苦しい熱ではなくて、それ等を極みない白銀の雰囲気の裡に、たとい瞬間なりとも消滅させる静謐な光輝である。秋とともに在って、私は無私を感ずる。人と人との煩瑣な関係に於ても、彼我を越えた心と心との有様を眺める。心が宇宙・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・そこにこそ、社会主義的生産の光輝がある。 プロレタリア文学が、ソヴェトの生産経済計画と緊密に結合したと云っても、主としてそれは作品の主題、内容に表現されるだけだ。文学的生産は、やっぱり個人個人勝手に、すきな時、自分が発見した材料によって・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・互が、最も希望と将来の光輝とを期待することである丈、種々に考慮しなければならない点が、実際問題となって起って来ます。それによって、幾年かの婚約を先ず予備するもの、或は、双方の重要な条件が相容れないためもう最後の一歩と云う点で失望に終るもの等・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 編輯後記には、ソ連に数年滞在した若き作家と紹介されている。筆の立つ人であるらしく、数年前或る役所からこの人の名で独特なパンフレットが出ていたような覚えがある。いろいろを考えると、「作家」という名詞の包括力の大さに、慨歎せざるを得ないわ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・美くしい月光の揺曳のうちにも、光輝燦然たる太陽のうち、または木や草や、一本の苔にまでも宿っている彼女の守霊は、あらゆる時と場所との規則を超脱して、泣いて行く彼女を愛撫し、激昂に震える彼女を静かに、なだめるのである。 心が暗く、陰気に沈む・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・その伝説的に高貴であった先生が、私の今日まで育って来た個性の傾向を知って、励まして下さった歓びは、恐らく私の一生を通じてその光輝を失う事は無いだろう。 此の感謝は、上の学校へ行ってから、同じような純粋な愛で、私の行く道に力強い暗示を与え・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・人民の公器であるラジオの民主化がいわれているうちに、政府は全く官僚統制の放送事業法案を議会に上程した。これらの言論・出版の自由の抑圧にしても、きょうでは、出版の民主化とかラジオの自由な発展とかいう表現に便乗して行われようとしているのである。・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫