・・・ 情緒の昂揚に全身をまかせ、詩について音楽について、憧憬ている旅の楽しさについて物語る時、マルクス主義の立場で経済論を書くローザはいつともなく黙祷だの、美しさだの、神秘だのの感情に溺れている。雲の綺麗さに恍惚として彼女は「こんな色や、こ・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・日本における民主的文学の高揚といっても、それは実際において日本の社会生活の諸面での民主化が進捗しなければ不可能である。そのために、民主的文化人・芸術家・技術家すべてが、精力をつくして働かなければならない。ちょうどソヴェト社会が社会主義に徹底・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・の中には散見するのであるが、精神的高揚の究極は茶道の精神と一脈合致した「静中に動」ありという風な東洋的封建時代の精神的ポーズに戻る今日のインテリゲンチア作家の重い尾骨は、年齢を超えて正宗にも横光にも全く同じ傾向をもって現れている。このことは・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・それに対する鼓舞の熱い燃え輝く力で観衆を一かたまりに高揚すべき大切な場面だった。それにもかかわらず彼等はそれをどう表現したか? 必要とは全然逆に表現した。――彼等は考えた。大詰だ。ここで、えーと、誰と誰、誰を踊らしてやらなければなるまい。だ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・新しくなることのために、どれほど、平凡で分りきったような現実追求がされなければならないかということを飛躍して、画家の主観的な気分の昂揚の中で「新しい」ものを生もうとする苦悩がありました。 このあいだ赤松さんにお会いしたら、私が深い疑問に・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・文化を人民の当然の共有財と理解してその民主的効用を求めないなら、いますべての男女学生が働きながら学べる教育のシステムを要求していろいろ骨を折っている意味もはっきりしなくなってしまいます。 インフレーションは勤労者の生活をおしつけていると・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・秋のことだから、四辺はすっかり暗い。黄葉した樹の葉と枯れ始めた草の匂いがガス燈に照らされた道に漂っている道が原っぱのようなところにひらけた。先に立って歩いていたドミトロフ君が、「鉄道線路があるから、つまずかないように!」と注意した。暫く・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・その時、貴女というものは、他の追従を許さない絶対の貴女であって、同時に、日常の貴女の或るものからは、完全に解脱した人格のしんの光耀に接するのでございます。 あらゆるよき芸術の驚くべき独立性と、普遍性との調和が、そこから生ずるのではござい・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・アンダスンの詩人らしい気象、アメリカの効用主義的社会通念に対する反抗が主題となっていて、文章もリズムを含んで感覚的で、一見主観的な独語のなかに客観的な批判をこめて表現する作風など、ドライサアとは全く異っていて、近代の心理的手法である。 ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・も本郷名物の一つであり、大学正門の銀杏並木も、学内の現実を、初夏はその若葉で、秋にはその黄葉で美化して見せる名物である。 本郷にはもう一つわたしにとって忘れることのできない名所がある。それは本郷区役所と並んでそびえていた本富士警察署の留・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
出典:青空文庫