・・・成長しきったその老杉に対すると何となく総てを知りぬいてる古老にでも逢ったように感じられて、ツイ言葉でも懸けて見たくなるのです。 奈良朝時代の「奈良」の人々は、きっと、周囲の自然物を深く愛して、そしてその愛着を永久に保ちたい為めに、それを・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
一九二〇年三月二十二日 郡山は市に成ろうとして居る。桑野は当然その一部として併合されるべきものである。村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員として与えられて居た名誉職を手放す事をな・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 思いがけない異変に驚く間もあらばこそ、鋭い刀を命の髄まで打ち込まれ打ち込まれした森の古老達は、悲しそうに頭を振り動かし、永年の睦まじかった友達に最後の一瞥を与えながら次から、次へと伐られてしまう。地響を立てて横たわる古い、苔や寄生木の・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ そして、其の醜い、其の固陋な障壁を破ろうとして、何時から血の汗を掻きながら戈を振って来ただろう。 昨日も、今日も、明日も、明後日も。彼等は戈を振うだろう。けれども、よく瞳を定めて凝と御覧なさい。戈を振いながら、彼等の右手は、恐ろし・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら、熊虎狼が出しゃばって来て日露戦争で握り飯を蟹からとりあげ小さい柿の種をおしつけた。百姓姿の蟹は仕かたがないから、その柿の種にせっせと肥しをかけやっと柿の実をみのらしたら、その出来がい・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・ところが、日が経つにつれて殆ど総ての職業の平凡さ、種々の職場内の伝習の固陋さ、自分にあてがわれる仕事の詰らなさが遣り切れなくなって来る。いろいろの意味で発展的な系統的な部署へつけられる娘は少くて、大概は機械的な、力のあまる、単調な場所におく・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・これは古老の言い伝えによったものらしいが、非常におもしろい。は軍法の巻で、何か古い記録を用いているであろう。は公事の巻で、裁判の話を集録しているが、文章はに似ている。は将来軍記で、これもに似ている。とをに合併すれば、大体は四つの部分になる。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫