・・・始めの内は新蔵も、混線だろうくらいな量見で、別に気にもしませんでしたから、「それから、それから。」と促し立てて、懐しいお敏の消息を、夢中になって聞いていました。が、その内に泰さんにも、この妙な声が聞えたのでしょう。「何だか騒々しいな。君の方・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 混線していた。「ああ、俺はいつも何々しようとした途端、必ず際どい所で故障がはいるのだ」 と、がっかりしながら、電話を切ると、暫らくぽかんと突っ立っていたが、やがて何思ったのか、あわててトランクを手にすると、そわそわと出て行った・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・文壇がこの期に達した時には混戦の状態に陥いる。混戦の状態に陥ると一騎打の競争よりほかになくなってしまう。日本の文壇がすでに混戦時代に達したか、あるいは達せんとしつつあるかは読者の判断に任せておきます。 いわゆる文明社界に住む人の特色は何・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・町へ芝居を見に行く前に、村の者はこの婆さんのところへ行って概説だけをきいて来るのであるけれ共、時には伽羅千代萩と尾上岩藤がいっしょになり、お岩様とお柳とが混線したりする。けれ共この村でのまあ芝居通である。 婆さんはいろいろ祖母と話をした・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫