・・・道太はあの時病躯をわざわざそのために運んできて、その翌日あの大地震があったのだが、纏めていった姪の縁談が、双方所思ちがいでごたごたしていて、その中へ入る日になると、物質的にもずいぶん重い責任を背負わされることになるわけであった。それを解決し・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・線路の上に立つと、見渡すかぎり、自分より高いものはないような気がして、四方の眺望は悉く眼下に横わっているが、しかし海や川が見えるでもなく、砂漠のような埋立地や空地のところどころに汚い長屋建の人家がごたごたに寄集ってはまた途絶えている光景は、・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・いままでのようにごたごた要らないことまでおぼえて物知りになることはいらないんだ。ほんとうに骨組みと要るとこだけやればいいんだから。あとは仕事がひとりでそれを教えるし、だんだんじぶんで読んで行けるから。」「ぼくらは冬にあの工場へ集ったりし・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・現実にはこの三種三様の心理が極めてごたごたとまざり合って、今日の日本らしく複雑にあらわれて来ているのだと思われる。 二月以来のモラトリアムは、経済生活を建て直す実効はなかった。特に、生活資金の二百円削減は、日常生活に甚大に響き、物価高、・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・そのためにばっかり生きて、ごたごた仕事に追い立てられていた。ところが今ではこういうようになって来た。……私と暮す――それもいい。私と暮さない……それがどう? 私には自分の道がある。すべて元通りに? いいえ、タワーリシチ、ミートシカ! 川は逆・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・「――本国であんなごたごたしているのに、金、なじょにするだべ」 ききなれたそれは福島辺の訛なので、私はぼんやりした好意をその体躯堂々たる農夫に対して感じた。彼が土を掘ってこそいるが、或る精神力のようなものをも持っていて、世界のいろい・・・ 宮本百合子 「北へ行く」
・・・ところが、昨年のごたごたで、その切りぬきは無くなり、私はどうしてもその研究者の姓名を思い出すことができない有様となったのであった。 四 ところが、二三日前ある本をさがしに東京堂へ行ったら「文章学・創作心理学・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・彼らは、当時の日本をいっぱいにしていたやぼな社会的・階級的ごたごたからは目をそらして、世界人類の能力の輝やかしい可能とそのおどろくべき発露に関心を集めた。これは、日本の知性の歴史にとって忘られない明るさ、つよい憧憬、わが心はこの地球を抱く思・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 自分のところの例で見てもよ、俺達んところにも共有地のことでごたごたがあったが、ああいうもんじゃなかった。成程、揉めた。ポリトフがやって来て地方委員会書記なんぞぬきに、皆をドナリつけた。誰も彼もコンムーナへ地面をだすことに同意した。みん・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・またこの大伯母はいつも黙って人の話を聞いているだけで、何か一言いうと、それで忽ち親戚間のごたごたが解決した。ときどき実家のあるこの村へ来ても、どこの家へも行かずに私の家へ来て泊っていったが、ある日伯母は東京へ行って来たといって私に絵本を一冊・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫