・・・彼女はまたよくそれを覚えていて、新七のにするつもりでわざわざ西京まで染めにやった羽織の裏の模様や、一度も手を通さず仕舞に焼いてしまったお富の長襦袢の袖までも、ありありと眼に見ることが出来た。もう一度東京へ――娘時分からの記憶のある東京へ――・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・ 姉らしい憂いに満ちた優しい気持で、私は先に欲しがって居てやらなかった西京人形と小さな玩具を胸とも思われる所に置いた。 欲しがって居たのにやらなかった、私のその時の行いをどれほど今となって悔いて居るだろう。 けれ共、甲斐のない事・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ それにつられた様に京子は西京へ行った時の話を丁寧に話した。「大阪って云うと京都より塵っぽい煤煙の多い処許り見たいだけど成園さんの描いたあの近所は随分好い、お酌もこっちのより奇麗だし同じ位『すれ』て居ても言葉が柔いからいやな気持・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・この任務の実現、即ち、ひとりヨーロッパの反動のみならず、更に又アジア反動の最強の支柱の粉砕は、ロシア・プロレタリアートを国際革命的プロレタリアートの前衛となすであろう」既にロシアの党は美事に、このことを示し得た。 今や、第二の革命と戦争・・・ 宮本百合子 「労働者農民の国家とブルジョア地主の国家」
出典:青空文庫