・・・その後も、――いや、最近には小説家岡田三郎氏も誰かからこの話を聞いたと見え、どうも馬の脚になったことは信ぜられぬと言う手紙をよこした。岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思いますが、スペイン速歩とか言う妙技を演じ得る・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・現に賢造の店などでも、かなり手広くやっていた、ある大阪の同業者が突然破産したために、最近も代払いの厄に遇った。そのほかまだ何だ彼だといろいろな打撃を通算したら、少くとも三万円内外は損失を蒙っているのに相違ない。――そんな事も洋一は、小耳に挟・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 父は例の手帳を取り出して、最近売買の行なわれた地所の価格を披露しにかかると、矢部はその言葉を奪うようにだいたいの相場を自分のほうから切り出した。彼は昨夜の父と監督との話を聞いていたのだが、矢部の言うところはけっしてけたをはずれたような・・・ 有島武郎 「親子」
思想と実生活とが融合した、そこから生ずる現象――その現象はいつでも人間生活の統一を最も純粋な形に持ち来たすものであるが――として最近に日本において、最も注意せらるべきものは、社会問題の、問題としてまた解決としての運動が、い・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
一 最近数年間の文壇及び思想界の動乱は、それにたずさわった多くの人々の心を、著るしく性急にした。意地の悪い言い方をすれば、今日新聞や雑誌の上でよく見受ける「近代的」という言葉の意味は、「性急なる」とい・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・私は最近数年間の自然主義の運動を、明治の日本人が四十年間の生活から編みだした最初の哲学の萌芽であると思う。そうしてそれがすべての方面に実行を伴っていたことを多とする。哲学の実行という以外に我々の生存には意義がない。詩がその時代の言語を採用し・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 最近も、私を、作者を訪ねて見えた、学校を出たばかりの若い人が、一月ばかり、つい御不沙汰、と手軽い処が、南洋の島々を渡って来た。……ピイ、チョコ、キイ、キコと鳴く、青い鳥だの、黄色な鳥だの、可愛らしい話もあったが、聞く内にハッと思ったの・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
夏目さんとは最近は会う機会がなかった。その作も殆んど読まない。人の評判によると夏目さんの作は一年ましに上手になって行くというが、私は何故だかそうは思わない、といって私は近年は全然読まないのだから批評する資格は勿論ないのであ・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・ 最近の新聞紙は、三山博士の子供が三人共家出をして苦しんでいるという事実を伝えている。その記事に依ると、本当の母親は小さいうちに死んでしまって、継母の手に育ったという。博士は三人の子供が三人共学問が嫌いで、性質が悪くて家出をしたように云・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ 古着屋の田中の新ちゃんはすでに若い嫁をもらっており、金助の抱いて行った子供を迎えにお君が男湯の脱衣場へ姿を見せると、その嫁も最近生れた赤ん坊を迎えに来ていて、仲よしになった。雀斑だらけの鼻の低いその嫁と比べて、お君の美しさはあらためて・・・ 織田作之助 「雨」
出典:青空文庫