・・・そして少からぬ金額を旅費として受け取った。最後に暇乞をしようとした時、名所記類を一山授けた。ポルジイは頭痛に病みながら、これを調べたのであった。 さてこの一切の物を受け取って、前に立っている銀行員を、ポルジイ中尉は批評眼で暫く見て、余り・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・そして今度はその最後の一輌にようやく追い着いた。 米の叺が山のように積んである。支那人の爺が振り向いた。丸顔の厭な顔だ。有無をいわせずその車に飛び乗った。そして叺と叺との間に身を横たえた。支那人はしかたがないというふうでウオーウオーと馬・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・今日でも一切の練習の最後の目的は卒業試験にあるような事になっている。この試験を廃しなければいけない。」「それは修学期の最後における恐ろしい比武競技のように、遥かの手前までもその暗影を投げる。生徒も先生も不断にこの強制的に定められた晴れの日の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 殺風景な病室の粗末な寝台の上で最期の息を引いた人の面影を忘れたのでもない、秋雨のふる日に焼場へ行った時の佗しい光景を思い起さぬでもないが、今の平一の心持にはそれが丁度覚めたばかりの宵の悪夢のように思われるのである。 妹を引取って後・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・その一匹を箒でおさえつけたのを私が火箸で少し引きずり出しておいて、首のあたりをぎゅうっと麻糸で縛った。縛り方が強かったのですぐに死んでしまった。その最期の苦悶を表わす週期的の痙攣を見ていた時に、ふと近くに読んだある死刑囚の最後のさまが頭に浮・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 私がこのセント・オラーフの最期の顛末を読んだ日に、偶然にも長女が前日と同じ曲の練習をしていた。そして同じ低音部だけを繰り返し繰り返しさらっていた。その音楽の布いて行く地盤の上に、遠い昔の北国の曠い野の戦いが進行して行った。同じようには・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・ それはさておいて、ピタゴラスの最期についても色々の説があるがその中の一つはこうである。 一日ミロにおける住宅で友人達と会合しあっていたとき誰かがその家に放火した。それは仲間に入れてもらえなかった人の怨恨によるともいわれ、またクロト・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・たとえば、身近い人の臨終を題としたもので病中の状況から最期の光景、葬列、墓参というふうに事件を進行的に順々に詠んで行ってあるが、その中に一見それらの事件とは直接なんら論理的に必然な交渉はないような景物を詠んだ歌をいわゆるモンタージュ的に插入・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・彼らの或者はもはや最後の手段に訴える外はないと覚悟して、幽霊のような企がふらふらと浮いて来た。短気はわるかった。ヤケがいけなかった。今一足の辛抱が足らなかった。しかし誰が彼らをヤケにならしめたか。法律の眼から何と見ても、天の眼からは彼らは乱・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・網を張っておいて、鳥を追立て、引かかるが最期網をしめる、陥穽を掘っておいて、その方にじりじり追いやって、落ちるとすぐ蓋をする。彼らは国家のためにするつもりかも知れぬが、天の眼からは正しく謀殺――謀殺だ。それに公開の裁判でもすることか、風紀を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫