・・・私自身にとってもその直感は参考にしか過ぎないのです。ほんとうの死因、それは私にとっても五里霧中であります。 しかし私はその直感を土台にして、その不幸な満月の夜のことを仮に組み立ててみようと思います。 その夜の月齢は十五・二であり・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・ 青年学生はいずれ関心事たる恋愛につき、いろいろな説を参考するもよかろう。また文芸や、映画でその種々相に触れずにもいないわけである。だが結局は自分の胸にわいてくるイメージと要請とをもって、自分たちの恋の世界を要求し、つくり出すべきだ。・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 参考書のたぐい田中智学 大国聖日蓮聖人清水竜山 日蓮聖人の生涯山川智応 日蓮聖人伝十講有朋堂文庫 日蓮聖人文集室伏高信 立正安国論高山樗牛 日蓮とはいかなる人ぞ姉崎正治 法華経の行者日蓮・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そして、次の襲撃方法の参考とした。 中隊長は、それをチャンと知っていた。しかし、パルチザンと百姓とは、同じ服装をしていれば、見分けがつかなかった。「逃げて行くパルチザンなんど、面倒くさい、大砲でぶっ殺してしまえやいいじゃないか。」・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・白金三光町。この白金三光町の大きな空家の、離れの一室で私は「思い出」などを書いていた。天沼三丁目。天沼一丁目。阿佐ヶ谷の病室。経堂の病室。千葉県船橋。板橋の病室。天沼のアパート。天沼の下宿。甲州御坂峠。甲府市の下宿。甲府市郊外の家。東京都下・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・って日本が紀元二千七百年の美しいお祝いをしている頃に、私の此の日記帳が、どこかの土蔵の隅から発見せられて、百年前の大事な日に、わが日本の主婦が、こんな生活をしていたという事がわかったら、すこしは歴史の参考になるかも知れない。だから文章はたい・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・八丁堀を引き上げて、芝区・白金三光町。大きい空家の、離れの一室を借りて住んだ。故郷の兄たちは、呆れ果てながらも、そっとお金を送ってよこすのである。Hは、何事も無かったように元気になっていた。けれども私は、少しずつ、どうやら阿呆から眼ざめてい・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ ケレドモ、所詮、有閑ノ文字、無用ノ長物タルコト保証スル、飽食暖衣ノアゲクノ果ニ咲イタ花、コノ花ビラハ煮テモ食エナイ、飛バナイ飛行機、走ラヌ名馬、毛並ミツヤツヤ、丸々フトリ、イツモ狸寝、傍ニハ一冊ノ参考書モナケレバ、辞書ノカゲサエナイヨウ・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・ ご参考までに。」「いうことが、いちいち、きざだな。歴史的氏の悪影響です。」数枝は、気をよくしていた。「あたしは、ね、歴史的さんでも、助七でも、それから、ほかのひとでも、みんな好きよ。わるい人なんて、あたしは、見たことがない。お母さ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・越中富山の万金丹でも、熊の胃でも、三光丸でも五光丸でも、ぐっと奥歯に噛みしめて苦いが男、微笑、うたを唄えよ。私の私のスウィートピイちゃん。あら、あたし、いけない女? ほらふきだとさ、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
出典:青空文庫