・・・は、誰でもあの詩歌の世界で、実にすなおに率直に男女の心持が流露されているのを知っているが、あのなかには沢山の可愛い女、美しい女、あでやかな女を恋い讚えた表現があるけれども、一つも女らしい女という規準で讚美されている女の例はない。これは本当に・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・として万葉王朝時代の文化の讚美をおこなった。そのことは、こんにちの亀井勝一郎のジャーナリズムでの活躍の本質と決して無縁なものではない。日本の現代文学の中になにかの推進力として価値あるものをもたらした人々は、北村透谷、二葉亭四迷、石川啄木、小・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
此頃、自然美の讚美され出して来た事は、自然美崇拝の私にとってまことに嬉しく感じる事である。 どうして今まで、ああして、そうもかまわれずに片隅になげた様にされて居たものかしらんと思う。 静かに太陽の健な呼吸を聞き、月・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・大鎌の奇怪なる角度より発散する三角形の光りの細胞は舞上り舞下りて闇黒の中に無形の譜を作りて死を讚美し祝し―― おどり狂う――大鎌をうちふりうちふりてなぎたおされんものをあさりつつ死は音もなく歩み・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・アカデミックな国文学者の著になる和泉式部の研究を土台として、一躍情熱の女詩人与謝野晶子への讚美となることの腑に落ちなさは一般文化人の胸にありつつ、何故輿論としてそれが発言されないのであろうか。文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の婦人と云えば、只一口に、何、アメリカのお転婆女は、男を圧迫して、暴威を振う事ほか知らないのだとけなす人もあれば、否左様ではない、アメリカの女位知的で、活動的で、芸術的で、総ての点に完全な婦人はないと讚美する人もございます。 どっちが正・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・昔の人は酸鼻という熟語でこの感覚を表現した。更に「地底の墓」「落日の饗宴」とを読み、いくつかの「新人論」を瞥見し、私は、文学に、何ぞこの封建風な徒弟気質ぞ、と感じ、更に、そのような苦衷、あるいは卑屈に似た状態におとしめられていることに対して・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 私は心からこの美を讚美する。 そして又地球が滅びてもなお此ればっかりは滅びると云う事を知らないで輝いて居るものである事を信じる。 美はどこの暗い中にでも冷っこい隅にでもあるものだ、その普通の美よりももっと尊い美がより沢山ある事・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・しかしこれらの人すべてが侵略戦争を心から賛美していたとするのはあやまりです。ジャーナリズムの統制がきびしくなり軍御用の作家でなければ作品発表がゆるされなくなったとき、ブルジョア出版社の出版からの収入でそれぞれ「有名な婦人作家」として存在して・・・ 宮本百合子 「戦争と婦人作家」
・・・彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面の表情や、腕、脚の霊活な線について。よき芸術にふれた歓喜を、彼等は各々多くの場合専門語で表現するに違いない。そう本ものの美術観賞家とも生れついていまい若者は、傍でそれ等テクニカル・タームの数々を耳に浚い・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
出典:青空文庫