・・・ 私は自然の美くしさの讚美者なんです。 ギリシア神話は今我々の実際に見られないもんです、見ようと思うには必ず何か芸術的な何物かを通してでなければ出来なくて丁度―― ええ太陽の微笑を浴びなければ見られない銀器のあの美くしさの様なも・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ と讚美する口葉の、丁度したののみつからない光君の心は人の世、この世の中にないものにまでそのめでたさをたとえて居たが若い頭の中を一っぱいに占領してはげしい形容詞をもとめて居る、美くしいと云う感情を満足させる事は出来なかった。紫の君の何も思わ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・小さい、小さい箇人の力――自分は彼を思うと、陽気に自分の幸福を讚美したり、楽しさに有頂天に成っては居られない心持に成って来る。私が、何としても、自分が健康で、活気に満ちて、生活に対する意力を感じて居るのは事実である。その明快な自分を傍観する・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 快く晴れ渡った日、四方を取り巻いた山々の姿を見た時、誰でもその特長ある、目覚しさを讚美しないものはないのである。 雪の皆流れ落ちた処、まだ少し残った処、少しも消えない処、等によって皆異った色彩を持って居る。 皆雪の流れた処は、・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・行って、それらの芸術の逸品に籠っている高い気品、精魂、芳香に面をうたれて、今更に古典の美を痛感すると一緒に分別をも失って、それぞれの芸術のつくられた環境の意味と今日の私たちの現実との関係を見失った欽仰讚美の美文をつらねる流行をも生じた。私は・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・この戦役におけるイギリス負傷兵の状況の酸鼻が、しばしば議会の問題となり、世界の注目がそこにあつめられた。この時代まだ笞刑の行われていたイギリス陸軍の兵士が、クリミヤ戦争で傷つき、運ばれてゆくスクータリーの陸軍病院という名は、有識の人々の間に・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・者が、文学修業の実際にとっては大した価うちとなるものを現実生活において見のがしながら、何か抽象的な情熱で、書かなければ、書かなければ、と日夜追いたてられているところに、誤って導かれた文学に対する理解の酸鼻を感じたのである。『婦人文芸』の・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
出典:青空文庫