・・・しかるに彼ら閣臣の輩は事前にその企を萌すに由なからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく、いわば自身で仕立てた不孝の子二十四名を荒れ出すが最後得たりや応と引括って、二進の一十、二進の一十、二進の一十で綺麗に・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・無筆のお妾は瓦斯ストーヴも、エプロンも、西洋綴の料理案内という書物も、凡て下手の道具立なくして、巧に甘いものを作る。それと共に四季折々の時候に従って俳諧的詩趣を覚えさせる野菜魚介の撰択に通暁している。それにもかかわらず私はもともと賤しい家業・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ ジャズを踊る踊子は戦争前には腰と乳房とを隠していたのであるが、モデルが出るようになってから、それも出来得るかぎり隠す部分の少いように仕立てたものを附けるので、後や横を向いた時には真裸体のように見えることがある。昨年正月から二月を過ぎ三・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・演り方が旨いとか下手いとか云う芸術上の鑑賞の余地がないくらい厭です。中村不折が隣りにいて、あのとき芸術上の批評を加えていたのを聞いて実に意外に思いました。ところが芝居の好きな人には私の厭だと思うところはいっこう応えないように見えますがどうで・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・近頃ふと思い出して、ああしておいては転宅の際などにどこへ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へやって懸物にでも仕立てさせようと云う気が起った。渋紙の袋を引き出して塵を払いて中を検べると、画は元のまま湿っぽく四折に畳んであった。画のほか・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・見物の人々は、彼の下手カスの芸を見ないで、実物の原田重吉が、実物の自分に扮して芝居をし、日清戦争の幕に出るのを面白がった。だがその芝居は、重吉の経験した戦争ではなく、その頃錦絵に描いて売り出していた「原田重吉玄武門破りの図」をそっくり演じた・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・その方がずっと派手で勇ましく、重吉を十倍も強い勇士に仕立てた。田舎小屋の舞台の上で重吉は縦横無尽に暴れ廻り、ただ一人で三十人もの支那兵を斬り殺した。どこでも見物は熱狂し、割れるように喝采した。そして舞台の支那兵たちに、蜜柑や南京豆の皮を投げ・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
河豚 どんな下手が釣っても、すぐにかかる魚は河豚とドンコである。 河豚が魚の王で、下関がその産地であることは有名だが、別に下関付近でとれるためではない。下関が集散地になっているだけで、河豚は瀬戸内海はもちろん、玄海灘でも、ど・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・即ち上等社会、銭に不自由なき良家の子供を学者仕立てに教育するの心得なれども、広き日本国中に子を教育するために余財を貯え余暇を有する者は幾人もあるべからず。この輩のためを謀れば、教育の法も上に記すものとは全くその趣を異にせざるを得ず。即ち編首・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・一 尚お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の出納を帳簿に記して勘定の出来るまでは随分易きことに非ず。父母の心して教う可き所なり。又台所の世帯万端、固より女子の知る・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫