・・・ 僕は少さい内から、まじめで静かだったもんだから、近処のものがあたりまえの子供のあどけなく可愛ところがないといい/\しましたが、どうしたものか奥さまは僕を可愛やとおっしゃらぬ斗りに、しっかり抱〆て下すったことの嬉しさは、忘れられないで、よく・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・イゴイズムそのものは絶滅は望まれないまでも、イゴイズムをして絶対に私の愛を濁さしめないことは、私の日常の理想でありまた私の不断の鞭です。この志向だけについて言えば別に問題はありません。これが真の自己を生かせる道ですから。 しかし私は自己・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・が大きい仕事の標徴であるかのごとくに考えている。そこに不正と虚偽がある。この点についてはおそらく真に真理のために努力する学者たちは先生の態度を是認しないでいられないだろう。六 徳義的脊骨のあるものには四周からうるさい事、苦し・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫