・・・口頭試問というものが、いろいろむずかしい問題をふくんでいるということが、この小説から与えられた印象の焦点をなした。G学園とかいてある。自由学園のことかもしれない。試験の日、そこで娘さんが、「賑やかなところへは何処へ行きましたか?」と試験官に・・・ 宮本百合子 「新入生」
・・・ マッチから指紋をとろうとしなかったか 指紋をとることを思いつかなかったか 又煙はどっちへ流れたか 素人らしき熱心さ、若々しさ。これはよい心持だ。 ○新恋愛探訪 颯爽として生活力的な恋愛一つもなし。 三つの記事 各々・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・そして、日本の全人民が、いかなるものに対して犯罪をおかそうとしていると不安なのか、全住民の指紋をとることまではじめられようとしている。 偽りの目標をもった戦争とその敗戦が、日本の社会をこわした。重大犯罪の大部分が組織的で、大規模で、殺人・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・左の指をずっと剪って、右の方になったとき、思い出すともなく思い出して拇指の裏を見たら、魚のめのようなものは二つ、いつの間にかすっかり消えてしまっている。指紋が綺麗に流れていて、その間に小さい島のように一つだけ楕円形に光ったところが残っている・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・三鷹事件で、ハンドルからとれた指紋が、山本、飯田両氏のものであるかないかは、二三時間もあれば発表できることではないか。〔一九四九年七月〕 宮本百合子 「犯人」
・・・ 平和と原子兵器禁止については、アフリカの字を知らない原住民まで、指紋を署名がわりに支持している。カンタベリー僧正ヒューレッド・ジョンソン氏から、アフリカの原住民までを貫く、この平和と原爆禁止の要求こそ、現代のヒューマニティーの叫びであ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙の釦が巴里の半景を歪ませながら、幽かに妃の指紋のために曇っていた。 ネー将軍はナポレオンの背後から、ルクサンブールの空にその先端を消している虹の足を眺めていた。すると、ナポレオンは不意にネーの肩に・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫