-
・・・ 楊樹の蔭を成しているところだ。車輛が五台ほど続いているのを見た。 突然肩を捉えるものがある。 日本人だ、わが同胞だ、下士だ。 「貴様はなんだ?」 かれは苦しい身を起こした。 「どうしてこの車に乗った?」 理由を・・・
田山花袋
「一兵卒」
-
・・・自分は閑静な車輛のなかで、先年英国のエドワード帝を葬った時、五千人の卒倒者を出した事などを思い出したりした。 汽車を下りて車に乗った時から、秋の感じはなお強くなった。幌の間から見ると車の前にある山が青く濡れ切っている。その青いなかの切通・・・
夏目漱石
「初秋の一日」