一、世に為政の人物なきにあらず、ただ良政の下に立つべき良民乏しきのみ。為政の大趣意は、その国の風俗、人民の智愚にしたがい、その時に行わるべき最上の政を最上とするのみ。ゆえにこの国にしてこの政あり、かの国にしてかの政あり。国の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ 中津の藩政も他藩のごとく専ら分を守らしむるの趣意にして、圧制を旨とし、その精密なることほとんど至らざるところなし。而してその政権はもとより上士に帰することなれば、上士と下士と対するときは、藩法、常に上士に便にして下士に不便ならざるを得・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・けだし習慣の力は教授の力よりも強大なるものなりとの趣意ならん。子生まれて家にあり、その日夜見習う所のものは、父母の行状と一般の家風よりほかならず。一家の風は父母の心を以て成るものなれば、子供の習慣は全く父母の一心に依頼するものというて可なり・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
明治五年申五月朔日、社友早矢仕氏とともに京都にいたり、名所旧跡はもとよりこれを訪うに暇あらず、博覧会の見物ももと余輩上京の趣意にあらず、まず府下の学校を一覧せんとて、知る人に案内を乞い、諸処の学校に行きしに、その待遇きわめ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・先きにこの世に生れて身に覚えある者が、その覚えたることを二代目の者に伝え、二代目は三代目に授けて、人間の世界の有様を次第次第に良き方に進めんとする趣意なれば、およそ人の子たる者は誰れ彼れの差別なく、必ず教育の門に入らざるをえず。いかなる才子・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・等しく文を記して同一様の趣意を述ぶるにも、其文に優美高尚なるものあり、粗野過激なるものあり、直筆激論、時として有力なることなきに非ざれども、文に巧なる人が婉曲に筆を舞わして却て大に読者を感動せしめて、或る場合には俗に言う真綿で首を締めるの効・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・前にいえる棄てて顧みずとは、父子の間柄にても、その独立自由を妨げざるの趣意のみ。西洋書の内に、子生れてすでに成人に及ぶの後は、父母たる者は子に忠告すべくして命令すべからずとあり。万古不易の金言、思わざるべからず。 さてまた、子を教うるの・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・されば今日の政治家が政事に熱心するも、単に自身一時の富貴のためにあらず、天下後世のために、国民の私権を張り公権を伸ばすの道を開かんとするの趣意にこそあれば、後の世の政治社会に宜しからざる先例を遺すは、必ず不本意なることならん。もしもその本心・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・このごろ出版協会の文化委員会に出る婦人雑誌のリストの中で『働く婦人』が首位を占める数種の中にちゃんと自分の歴史的な位置をしめしているのを、わたしはいつも感情にふれるものとしてながめる。『働く婦人』三月号に、村山知義さんの「結婚」という連・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・第一審判決後の第一信に「裁判長の趣意は、今の私の立場も心境も充分認めた上、命をもって国民に詫びよ、というのです」と平静に告げられている。そのくだりを読んだとき、私の心には一つの叫びがあった。「命をもって詫びよ。それは尾崎氏らを殺した人々に向・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
出典:青空文庫